第61話:「染み込む朝」 (木曜日)
章太の朝のちょっとした行動、リンコさんの言葉づくり、そして未来や遥のさりげない気づきが、ふわりと重なっていくように描いてみました。
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目覚ましが鳴る少し前に目が覚めた。 窓の外は曇り空。けれど、空気はどこか澄んでいる。 章太は、いつもより少しだけ丁寧にシャツを選んだ。 白地に細いグレーのストライプ。昨日の夜の余韻が、まだ胸の奥に残っていた。
コーヒーを淹れながら、スマホを手に取る。 リンコからのメッセージは、既読になっているだけなのに、なぜか“続き”があるような気がした。
出勤の足取りは、いつもより少しだけ軽かった。
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午前。 リンコは、メールマガジンの本文を書き始めていた。 タイトルは「秋の気配と、静かな変化」。 その“変化”をどう言葉にするか、ようやく少しだけ見えてきた。
「誰かと過ごした時間の中に、変化はそっと息づいている。 それは、言葉にならない気配として、日々の端々に染み込んでいく。」
打ち終えた文章を見つめながら、リンコは小さく息を吐いた。 昨日の夜、先輩に送ったメッセージが、自分の中にも何かを残していた。
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昼前。 広報部のデスクで、未来がふとつぶやく。
「リンコさんの文章、今日ちょっと違いますね。…なんか、柔らかいです」
遥は画面を見ながらうなずく。
「先輩の“余白”が、染みてきてるのかも。 でも、ただ真似してるんじゃなくて…“誰かと過ごした時間”が、言葉になってる感じ」
未来は少し笑って言う。
「…それって、すごく広報部っぽいね」
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午後。 章太は、資料の端に小さくメモを添えた。 「“気配”は、言葉の外側にあるもの。広報部の文章、今日もいいね」
そのメモは、封筒に入れられ、静かにリンコのもとへ届く。
リンコはそれを見て、声には出さずに思う。
「…ちゃんと見てるな」
木曜日の午後。 言葉にならない気配が、静かに広報部を満たしていた。
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次回は金曜日。週の終わりに向かって、ふたりの距離がどう揺れるか。展開をお楽しみに。




