第6話:「ミルクティーと本棚の間に」** (土曜日)
休日の静けさの中、偶然交差するふたりの午後——心の距離がやさしく溶けていくひとときです
土曜日、午後3時。
街のはずれ、レトロなカフェの奥には静かな本棚が並んでいた。
氷川リンコは、ベージュのニットとスニーカー姿で、スコーンの甘い香りに包まれながらスマホでメニューを見ていた。
休日モード全開のまったり顔。
「…あれ?氷川?」
カップのふちに口をつける寸前、聞き慣れた声がカフェの空気を揺らした。
振り返ると、私服姿の先輩。ネイビーのパーカーにジーンズ。いつもより少しラフだけど、なんだかしっくりくる。
「先輩、カフェ似合うんですね。てか偶然すぎ…!」
リンコは笑いながら席を指さす。
先輩は少し迷ったあと、静かに向かいに座った。
店内はジャズが流れていて、ふたりの会話はゆっくりとしたリズムで進んでいく。
「普段はこういうとこ来るんですか?」
「月に1回くらい。“落とし物”探しに」
「え?落とし物…?」
「なんか、置いてきちゃった気分になった週ってあるだろ。気持ちとか、余裕とか」
「先輩…詩人になったんですか?それとも頭ぶつけちゃった?」
リンコはいたずらっぽく笑った。
それから、ぽんと手帳を取り出した。
「じゃあ、今日拾った気分になった言葉、書いてもいい?」
先輩は頷いて、ミルクティーに口をつけた。
そして、黙って本棚の端に視線を移した。
休日のカフェ。
ミルクティーと本棚の間に、ふたりの距離が静かに溶け始める午後だった。
休日ならではのゆるやかな時間が流れる一話でしたね