第57話: 「静かな誘いと、静かな時間」 (日曜日)
章太が思いきってリンコを映画に誘い、ふたりで静かな休日を過ごす一日を描いてみます。
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日曜の朝。 章太は、スマホを見ながら少しだけ迷っていた。 映画の上映時間と、近くのカフェの営業時間を確認する。
「…誘ってみよう。 昨日の“余白”が、まだ残ってるうちに」
メッセージは短く、シンプルだった。
「突然だけど今日、映画見に行かない? 『遠い山なみの光』ってやつ。 そのあと、少しお茶でも」
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昼前。 リンコは、駅前の映画館に向かって歩いていた。 メッセージを見たとき、少しだけ驚いた。 でも、心の中には“行きたい”が先にあった。
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映画館。 ふたりは並んで座り、スクリーンを見つめていた。 物語は静かに進み、言葉よりも“記憶の揺れ”が画面を満たしていた。
章太は、ふと横目でリンコを見る。 リンコは、静かに画面を見つめていた。 その表情は、先日よりも少しだけ柔らかかった。
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上映後。 ふたりは近くのカフェに入る。 窓際の席に座り、映画の感想を交わす。
「…あの場面、すごく静かだったけど、 言葉より“気持ち”が伝わってきましたね」
リンコが言う。
章太は、コーヒーをひと口飲んでから答える。
「氷川にも、そういうところあるよな。 静かだけど、ちゃんと伝わる。まあ俺ははしゃいでる氷川の方が、らしいなって思うけど」
「ひとこと余計ですよ、もう先輩」
不思議と悪い気はしなかった。
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夕方。 カフェを出て、駅までの道を並んで歩く。
「今日は、ありがとうございました。ホントはわたしが誘おうと思ってたけど、先越されました」
リンコが言う。
章太は、少しだけ笑って答える。
「それは悪いことしたな。じゃ次に氷川から誘ってくれよ」
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日曜日は、“静かな誘い”がふたりの距離を少しだけ近づけた日だった。 映画の余韻と、カフェの静けさが、ふたりの“間”をやさしく包んでいた。
この一話で、ふたりの関係が“言葉にならない時間”を通して深まっていく様子を描けたと思います。




