第56話: 「余韻のある休日」 (土曜日)
前夜の食事をそれぞれが思い返しながら、休日を静かに過ごすふたりの姿を描いてみます。直接的なやり取りはなくても、互いの存在が“日常の中に残っている”ような、余韻のある一話を目指します。
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午前10時。 リンコは、近所のカフェでノートを広げていた。 紅茶の香りが静かに漂う中、ペンが止まる。
「次はどこがいいかなあ?考えとくよ…って、言ってたな」
ページの端に、先輩の言葉をそっと書き留める。 その文字は、少しだけ揺れていた。
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同じ頃。 章太は、自宅の本棚を整理していた。 ふと、以前リンコが話していたエッセイ集が目に留まる。
「…“言葉の余白”って、こういうことなのかもな」
本を手に取り、ソファに腰を下ろす。 ページをめくるたびに、昨夜のリンコの声がふと蘇る。
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午後。 リンコは、スーパーで食材を選びながら、ふと立ち止まる。
「…先輩、こういうの好きなのかな。今度はわたしから誘ってみようかな」
手に取ったのは、昨日の店で出てきた前菜に似た食材。 買い物かごに入れるか迷って、そっと戻す。
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夕方。 章太は、近所の公園を歩いていた。 ベンチに座り、スマホを開く。 メッセージ画面には、昨夜のやり取りが残っていた。
「…送るほどじゃないけど、 なんでもいいから伝えたいな」
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土曜日は、ふたりが“前夜の余韻”をそれぞれの時間の中で抱えていた。 言葉にはしないけれど、 その静かな気配が、休日の空気を少しだけやわらかくしていた。
この一話で、ふたりの“関係の余韻”が日常に溶け込んでいく様子を、静かに描けたと思います。




