第55話(前編): 「昼の仕事と、夜の気配」 (金曜日・昼)
第55話を前編・後編の二部構成でお届けします。前編では金曜の昼、ふたりが仕事をしながら“夜の食事”を意識する様子を描き、後編ではその夜、実際の食事の場面を静かに紡いでいきます。
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金曜の午後。 広報部のデスクにて、リンコは資料をまとめながら、ふと手を止める。
「…この資料、先輩にも共有した方がいいかな」
未来が隣から顔を出す。
「“夜に会うからいいや”って思ってるでしょ?」
リンコは少し笑って、首を振る。
「違います。 …仕事は仕事。夜は夜。 でも、ちょっとだけ“夜の先輩”を意識してるかも」
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一方、企画部。 章太は、プレゼン資料の修正を終えたところで、スマホをちらりと見る。 予約した店の確認通知が届いていた。
「…時間、ちょうどいいな。 氷川、あんまり待たせたくないし」
陸が背後から声をかける。
「なんか、今日の章太、やらしい顔してるなあ。ウキウキが漏れ出てるわ」
章太は、少しだけ照れたように笑う。
「…そんな顔、してる?」
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午後5時。 リンコは、最後のメールを送信してから、静かに席を立つ。
「…じゃあ、行ってきます」
未来が小さく手を振る。
「“行ってきます”って言うの、いいよね。 なんか、“誰かに会いに行く人”って感じ」
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金曜の昼は、ふたりが“夜の気配”を少しずつ意識する時間だった。 仕事の手を止めるたびに、心の中で“誰か”の姿が浮かんでいた。
後編は19時に更新します。お楽しみに。




