第54話: 「準備する人たち」 (木曜日)
金曜日の食事に向けて、章太とリンコがそれぞれ“準備”をする様子を。ふたりの間にある“まだ言葉になっていないもの”が、少しずつ形になっていくような一話にしてみます。
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木曜の午後。 章太は、社内のカフェスペースでスマホを見ながら、何かを考えていた。
「…予約、どうしたもんかな。 カジュアルすぎても、かしこまりすぎても…」
隣にいた陸が、コーヒーを飲みながら言う。
「金曜の夜って、あれでしょ?リンコさんと。 “ご飯”って言ってたけど、もうちょっと踏み込んでもいいんじゃない?」
章太は、少しだけ笑って返す。
「踏み込むって、何を?」
「場所もそうだけど。何を話すかとか、何をするかとか …準備って、そういうことじゃない?」
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一方、広報部。 リンコは、デスクで資料をまとめながら、ふと手を止める。
「…金曜の夜、何着ようかな」
未来が、隣の席から顔を出す。
「“ご飯”って言ってたけど、先輩の“間”って、ちょっと特別ですよね。わたし、先輩って結構受け身の人だと思ってたけどちゃんと、男の人なんだね。 リンコさんも、準備してる?」
リンコは、少しだけ考えてから答える。
「…してる。 でも、“言葉の準備”って難しいですね。 言いすぎても、足りなくても、どこか違う気がして」
未来は、静かにうなずく。
「でも、準備してる人って、ちゃんと伝わりますよ。 言葉じゃなくても」
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夕方。 章太は、予約した店の確認メールを見ながら、ふとつぶやく。
「…準備って、相手のことを考える時間なんだな」
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木曜日は、“準備する人たち”が、それぞれの場所で静かに動いていた。 言葉にならない気持ちを、少しずつ形にしながら。 金曜日の夜に向けて、ふたりの“間”が、また少しだけ近づいていた。
今回は“準備”というテーマを通して、ふたりの内面にそっと触れるような一話になったと思います。




