第44話: 「付箋の端に、誰かの気配が残る日」 (月曜日)
付箋を介した静かなやりとりと、昼休みのささやかな会話を軸にふたりの距離はまだ“業務の中”にあるけれど、言葉の選び方やタイミングに、確かに“誰かを意識している”気配がにじむ一話です。
月曜の午前。 広報部では、リンコが週次報告の資料を確認していた。 企画部から届いた草案の3ページ目に、ふと目が止まる。
そこには、先輩の字で貼られた付箋があった。
“この一文、広報の視点で補足できそう。 読まれる側の沈黙を前提にした表現、検討の余地あり。”
リンコはその付箋の端を指でなぞりながら、 自分のメモ帳から小さな付箋を取り出し、そっと隣に貼った。
“沈黙の先に届く言葉は、たぶん“残る”より“染みる”に近いと思います。”
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昼休み。 広報部の給湯スペースで、リンコと未来が並んでいた。
「…先輩、付箋貼ってました。 “広報の視点で補足できそう”って」
未来は紅茶を注ぎながらうなずく。
「それ、完全に“リンコの文章を読んだあとに出てくる言葉”だよね」
「…読まれてたのかな。 でも、読まれたって確信するのって、ちょっと怖い」
「怖いってことは、届いてほしいって思ってるってことじゃない?」
リンコは笑わず、でも少しだけ目を細めた。
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午後。 企画部では、章太が資料の再整理をしていた。
リンコの付箋が追加されていることに気づき、 その言葉をしばらく見つめていた。
“染みる”という表現。 それは“届いたあとに残る”よりも、“届いた瞬間に変わる”に近い。
章太は、資料の端に小さくメモを残した。
“染みる言葉は、誰かの中で静かに形を変える。 それが“届いた”ということかもしれない。”
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月曜日は、“付箋の端に誰かの気配が残る日”だった。 言葉を交わしたわけではない。 でも、ふたりの視点が、紙の上で静かに重なっていた。
付箋を通じて交わされる“言葉にならないやりとり”と、昼休みのささやかな会話が、ふたりの距離をじんわりと近づける一話になったと思います。




