第42話:「風が強い日は、言葉が届きやすい」** (土曜日)
**海への小さな遠出**を舞台に、ふたりの距離がほんの少しだけ変わる瞬間を描いていきますね。陸の無邪気さ、ひよりの観察眼、そしてリンコと章太の“言葉にならないやりとり”が交差する、夏の午後の一話です。
---
土曜の午後。
海沿いの駅に集合した。
陸はサンダル姿でテンション高め、ひよりは日傘をくるくる回している。
リンコは、白いシャツに薄手のカーディガン。
章太は、ネイビーではないグレーのTシャツを着ていた。
—
海辺のカフェで軽く昼食をとったあと、4人は浜辺を歩いていた。
陸が先頭で走り出す。
「うおー!海ってだけでテンション上がるの、なんでだろ!」
ひよりが笑いながら言う。
「陸くん、テンションで気温上げないでください〜」
—
リンコと章太は、少し後ろを歩いていた。
「…海、久しぶりです」
「俺も。たぶん、学生の頃以来」
「先輩が海にいるって、ちょっと不思議ですね」
章太は、波の音に耳を傾けながら答える。
「…不思議って言われると、少し居づらくなるな」
「でも、似合ってますよ。
静かな場所って、先輩の言葉がよく届く気がするから」
章太は、リンコの言葉に少しだけ目を向ける。
でも何も言わず、波打ち際の方へ視線を戻した。
—
少し離れた場所で、ひよりは二人を見ていた。
> “リンコさんと章太さん、並んで歩いてる。
> でも、話してるのは“言葉”じゃなくて“空気”って感じ”
気になるな~。
「ひよりさーん、浸ってるの?」
陸は少し申し訳なさそうに話したが、すぐにテンションを戻した。
誘った自分がこんな空気を出すわけにはいかないだろう。
—
「陸さん、今日は罰としてお酒おごってください」
ひよりはどんな感情でいればいいのか逡巡していた。
夕方。
帰りの電車で、リンコは窓の外を見ながら、ふと章太に話しかける。
「今日、来てよかったです。
…“言葉が届く場所”って、案外こういうところなのかもしれないですね」
章太は、少しだけうなずいた。
「風が強い日は、言葉が遠くまで届く気がする」
—
土曜日は、“風が強い日”だった。
誰かの言葉が、誰かの心に届いたかどうかはわからない。
でも、届いたかもしれないという予感だけが、静かに残っていた。
---
ふたりの距離が“言葉ではなく空気で測られる”ような、夏らしい余韻のある一話になったと思います。




