第39話:「誰に向けて話したかなんて、曖昧なままでいい」** (水曜日)
第39話(水曜日編)は、ふたりの距離があくまで“業務”を通して自然に交差する一場面。「偶然手が触れる」でもなく、「会話が途切れる」でもない――あくまで**言葉のやりとりが空気を変えるタイプの“ちょっとした絡み”**です。
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水曜の午後。
企画部の章太は、来週の共同企画についてまとめた資料を広報部に渡すため、一式を手に持っていた。
部内で配布する前に、確認のため広報部席へ。
そこにちょうどリンコが戻ってくる。
「あ、先輩」
「…資料、確認お願いできますか。3ページ目に追加案、入れてます」
リンコはそれを受け取りながら言う。
「“余白を意識した配置”って文言、広報のほうでも使い始めてるんですよ」
「…“誰に届くか”が明示されてない言葉の配置が、今っぽいと思ってて」
「でも、“今っぽさ”だけじゃ、残らないこともある」
章太は少しだけ黙ってから返す。
「…残るものって、“どこか曖昧なまま”の方が、長く響く気もします」
ふたりは目を合わせないまま、それぞれ資料に視線を落とす。
でも、“今話していたのは誰に向けた言葉だったか”――そのことだけは、自然と分かっていた。
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そのやりとりを離れた席から見ていた未来が、微笑みながらぼそりとつぶやく。
「…誰に向けて話してたかって、本人たちはたぶん気づいてるよね」
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水曜日は、“言葉の受け渡しだけが残る時間”だった。
交差ではなく、投げかけるでもなく、
たったひとつの文言がふたりの距離を静かに測っていた。
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言葉のやりとりが短いながらも、「誰に向けて話していたのか」が空気として感じ取れる回になったと思います。




