表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ショートシーン  作者: 木村ユキムラ
38/101

第38話:「届いたのかもしれない、という予感」** (火曜日)

前日の会議での“言葉の交差”や、ひよりとのやりとりが、じわじわとリンコの思考の中で波紋を広げていきます。


---


火曜の朝。

広報部の席で、リンコは社内報の修正案に軽く目を通していた。


ページの隅に手書きした、あの一文が目に入る。


> “余白のなかで選ばれる言葉が、感情の輪郭になる”


「…もう誰かが読んだかもしれない」


誰か。

月曜の会議で、目を合わせなかったけれど――資料のページをそっと指でなぞる様子が、記憶に残っていた。



昼休み。

未来が給湯スペースでリンコに話しかけてくる。


「昨日のあれ、すごかったね。

先輩が文章の一文、引用してたの、聞いてた?」


「うん。自分の書いた言葉が、“使われた”ってことがちょっと不思議だった」


「使われたっていうより、“残ってた”んじゃない?

先輩のあの話し方、“誰かの文章をちゃんと読んでから話す人”の空気だったよ」


リンコは、ミルクを紅茶に落としながら黙ってうなずいた。



午後、業務に戻ったリンコは、取引先との調整メールを書いていた。

件名:「読者アンケート追記案について」


本文の最後に、ふと自分の言葉を短く添えた。


> “一文に、誰かが沈黙してしまう瞬間がある。

> でも、その沈黙は、たぶん読まれた証なのだと思う。”


その“誰か”が誰かは、言葉にしなかった。

ただ、昨日の会議室の光景だけが、文章の背景に残っていた。



夕方。

リンコは帰り際、エレベーターの前でひよりと偶然鉢合わせる。


一瞬だけ沈黙。

でも、ひよりが軽く笑って言う。


「昨日の一文、読んだとき“ちょっと悔しいな”って思ったんですよね」


「…悔しい?」


「文章って、丁寧なだけじゃ残らないと思ってたけど。

あれは、“感情の中心に届くタイプ”だった。先輩が拾った理由、なんとなくわかりました」


リンコは、正面ではなくエレベーターの表示パネルを見ながら答えた。


「届くかどうかは、書いた人じゃわからないものです」


「ですね。…でも、わたしには届いたって言えるかも」



火曜日は、“届いたかもしれないという予感”が静かに浮かび上がる日だった。

誰かが沈黙していたからこそ、言葉が残っていた。

そして、それを覚えていることが、少しだけ自信になっていた。


---

リンコの静かな視線と、“言葉がどこに届いたのか”を探るような余韻を中心に描いた一話になったと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ