第30話:「言われてないけど、伝わってる気配」** (火曜日)
今回はリンコと先輩の“週末の食事”がまだ誰にも知られていない状態で、その予感をめぐって周囲の空気がじんわり揺れる回にしてみます。
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火曜の昼休み。
広報部の給湯スペースで、未来がリンコに声をかける。
「リンリンって、最近ちょっと穏やかになったよね」
「…え、それって前はどうだったの?」
「言えないひと言を、飲み込む回数が多かった気がする。今は“言わないけど持ってる”って感じ」
リンコは、ミルクを紅茶に足しながらうなずく。
「…もしかして、その“持ってる”が、週末にちょっと出るかもしれない」
未来は一瞬沈黙してから微笑む。
「…あ、そっちの流れなんだ。把握した」
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同じ頃、企画部ではひよりが資料の確認をしていた。
ふとチャットの時間履歴を見ると、昨日の帰り際に章太が何か返信をしていたことに気づく。
> “金曜午後は動けるかもしれません”
> (社内資料スケジュール内、タイムスタンプあり)
その一文に、ひよりは少しだけ考え込む。
「…誰かと予定がある?」
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午後、陸がひよりの近くにやってきて、コーヒーを渡しながら言う。
「ひよりさん、歓迎会以降ちょっと“先輩の壁”分厚くなってません?」
「…そう?わたしは、壁っていうか“静かなバリア”を見てるだけかも」
「バリアの中、誰か入ってる気しない?」
ひよりは笑って返す。
「もし誰かが入ってるなら、その人すごい。
わたし、ドアノックの音しか聞こえてないから」
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夕方。
リンコはデスクのカレンダーを見ながら、金曜日の欄にそっと星マークをつけた。
それは予定じゃない。
ただ、“言葉を持っていくつもりの日”の印。
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火曜日は、“言われてないけど伝わってる気配”が漂う日だった。
それぞれが何かを察して、でも言葉にはしないまま、静かに週末へ向かっていた。
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直接的な描写は避けつつも、ふたりの間に生まれた週末の約束が、周囲にじわじわと伝わっていく回になったと思います。




