第27話:「思い出すのは、話さなかったこと」** (土曜日)
歓迎会の余韻がまだ心に残る週末。誰にも会わない静かな休日の中で、ふとした瞬間に“昨日の空気”がよみがえり、言えなかったひと言が胸の奥で静かに響く——そんな一話です。
---
土曜日の午前。
リンコは、近所のパン屋でクロワッサンとカフェオレを買い、静かな公園のベンチに座っていた。
木漏れ日がノートの端に落ちて、風がページを少しだけめくる。
「…昨日、何も話せなかったな」
歓迎会のことを思い出す。
ひよりの明るい声、先輩の静かな笑顔。
そして、自分が“何も言わなかった”こと。
—
スマホを開くと、社内チャットに陸の投稿があった。
> 昨日の歓迎会、ひよりさんの“先輩いじり”が最高だった件
> 章太が、あんなに笑うの珍しいな
その一文に、リンコは指を止める。
「…笑ってたんだ」
自分の席からは、見えなかった表情。
でも、誰かの言葉で知ってしまうと、少しだけ胸がざわついた。
—
午後。
リンコは図書館のカフェスペースで、社内報の次号案を練っていた。
ふと、文章の中に“距離”という言葉を入れようとして、手を止める。
「…距離って、測るものじゃなくて、感じるものかもしれない」
その言葉を、ノートの端にそっと書き留めた。
—
夕方。
帰り道、リンコは駅前の雑貨屋に立ち寄る。
目に留まったのは、白いカードと、淡いグレーのペン。
「…伝えたいことがあるわけじゃないけど、
伝えたくなったときのために、持っておこう」
それは、言えなかったひと言の“予備”だった。
—
土曜日は、“話さなかったこと”を思い出す日だった。
誰にも会わない静かな時間の中で、心だけが誰かに向かっていた。
---
リンコの静かな休日の中に、昨日の余韻と“言えなかった気持ち”がじんわりと浮かび上がる回になったと思います。




