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ショートシーン  作者: 木村ユキムラ
26/101

第26話:「座らない席、言えないひと言」** (金曜日)

いよいよ今夜は“ひよりの歓迎会”。表面的にはいつも通りの仕事の金曜だけど、静かに胸の奥で揺れている気持ちと、複雑な感情が交差する一話です。


---


金曜の午前。

リンコは、社内報の最終確認を終えて、文章の末尾にそっと一文を加えた。


> “週の終わりに残るのは、言えなかったひと言かもしれない”


保存ボタンを押したあと、メール通知が届く。


件名は「歓迎会・最終メンバー表(席割含む)」。


開くと、“高梨ひより”の隣には「企画部・章太」の名前。



広報席。

未来がふらっと寄ってくる。


「リンリン、見た?席表」


「うん…なんか、“動かしちゃいけない”みたいに決まってたね」


「でも、“隣に座らないほうが気になる”っていうのも、ある意味正解だよ」


「…そういうもの?」


「そういうもの。“見ないようにしてるのに見えてる場所”って、けっこう残るよ」



夕方。

仕事を終えて、リンコは小さなトートバッグを持ってゆっくり更衣室へ。


ひとり鏡に向かいながら、髪のまとまりを整える。


「…どんな顔すればいいのかな、今日」


視線はあくまで自分に向けたもの。

でも、その奥には“誰かの表情”がちらついていた。



歓迎会は、駅前のカフェバー。

すでに席に着いたメンバーの間で、軽い乾杯の声が飛び交う。


リンコは、広報部の島に座りながら、企画部の様子をちらりと見る。


ひよりが、笑顔で何かを話している。

先輩は、いつもより少しだけ口元がほぐれているように見えた。



遥が耳打ちする。


「リンリン、視線が往復してる〜。完全に“やさしい嫉妬モード”だね」


「…そんなわかりやすくしてるつもりないんだけど」


「それで正解。リンコは“選ばないで気づかれるタイプ”なんだから」



夜はゆっくりと進み、グラスの数だけ空気が変化していく。

でも、リンコの中に残っているのは——


“先輩の隣の席に、今日は座らなかったこと”。


それが、今夜一番の選択だった。



金曜日は、“座らない席”が感情を揺らす日だった。

言えなかったひと言の代わりに、静かな余韻だけが残った。


---


リンコさんの複雑な気持ちが深く描かれる一話になったと思います。

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