第22話:「はじめましての風、静けさの隣に」** (月曜日)
高梨ひよりの初登場回です。彼女の明るく積極的な性格が企画部に新しい風を吹き込み、先輩とのやりとりに微妙な空気が生まれる——そんな“始まりの気配”を描いた一話です。
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月曜の朝。
企画部の空気は、いつもより少しだけざわついていた。
藤村部長が、朝礼の最後にふと声を上げる。
「今日から企画部に加わる、高梨ひよりさんだ。営業部からの異動になる」
ひよりは、白いブラウスにベージュのパンツ姿で、明るく一礼した。
「高梨ひよりです。企画の仕事、ずっと興味があって…
先輩方の背中、たくさん見させてもらいます!」
その“先輩方”の中に、章太も当然含まれていた。
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午前中、ひよりは資料整理を終えたあと、先輩のデスクにふらっと現れる。
「先輩、これってどこに提出するんですか?」
「…部長に直接。午後の会議で使うから」
「ありがとうございます。
…先輩って、話すとき静かですね。声のトーン、落ち着くかも」
先輩は、少しだけ視線を上げる。
「…そうか」
「はい。営業部って、テンション高めだったんで。
企画部、空気が違って新鮮です」
その言葉に、先輩は何も返さず、資料に目を戻した。
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午後、リンコは広報部の席で、社内チャットを見ていた。
そこには、ひよりが企画部に異動したという通知と、軽い自己紹介の文面。
「…高梨ひよりさん、か」
未来が隣で言う。
「リンリン、ちょっと顔が“気になるモード”入ってるよ?」
「え、そんなこと…」
「先輩の隣に新しい風が吹いたら、そりゃ気になるでしょ。
でも、風って、吹いても根っこは動かないから」
リンコはその言葉に、少しだけ安心したように笑った。
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月曜日は、“はじめましての風”が吹いた日だった。
でも、静けさの隣に立つ人は、まだ変わらずそこにいた。
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ひよりの明るさが企画部に新しい空気を運びつつ、先輩の静けさがそれにどう向き合うか——そんな始まりの一話になったと思います。