第20話:「休日のカフェ、名前だけで揺れる午後」** (土曜日)
来週から企画部にやってくる“高梨ひより”の話題が、ふとした会話の中で浮かび上がり、リンコの心に静かなざわめきを生む——そんな“気になる予感”を描いた一話です。
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土曜日の午後。
リンコは、駅近くのカフェで未来と待ち合わせをしていた。
窓際の席。
ふたりはそれぞれラテと紅茶を注文し、週末の空気に身を委ねていた。
「…来週、企画部に新しい人来るんだってね」
未来がふと口を開く。
「うん。高梨ひよりさんっていうらしい。営業部からの異動」
「遥が言ってた。“元気で積極的で、先輩にガンガン話しかけるタイプ”って」
リンコは、スプーンでラテの泡をくるくる回しながら言う。
「…先輩、そういうタイプに弱そう」
「弱いっていうか、反応しづらそう。でも逆に、気にするかもよ?」
ふたりは笑い合う。
でもリンコの笑顔は、少しだけ揺れていた。
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未来が、ふと真顔で言う。
「リンリン、先輩のこと…“気になる”って、もう言ってもいいんじゃない?」
「…気になる、か。
名前だけで揺れるって、ちょっと自分でもびっくりしてる」
「それ、ちゃんと恋の入り口だよ。
“誰かの名前が、自分の気持ちを動かす”って、すごく大事なこと」
リンコは、カップを両手で包みながら、窓の外を見つめる。
街は、週末の人混みで少しだけ騒がしい。
でもその中で、自分の心の音だけが静かに響いていた。
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土曜日は、“名前だけで揺れる午後”だった。
まだ会っていない誰かの存在が、ふたりの距離にそっと風を吹かせていた。
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ひよりの名前が、リンコの心に静かなざわめきを生む回になったと思います。