第18話:「差し入れと、視線の交差点」** (木曜日)
新キャラ水島くん、彼の軽やかな言葉と距離感が、リンコの心にちょっとした波紋を生み出します。そしてその様子を、先輩が静かに見つめる——そんな“揺れの予兆”を描いた一話です。
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昼休み、社内の休憩スペース。
リンコは、資料の修正を終えてコーヒーを買いに向かっていた。
その時、営業部の水島悠人が、缶ジュースを2本持ってふらっと現れる。
「氷川さん、これ。オレンジとグレープ、どっち派?」
「え、急に選択肢…」
「どっちでもいいって言う人には、グレープ渡すって決めてるんだけど、どうする?」
リンコは笑いながら、オレンジを選ぶ。
「じゃあ、逆張りでオレンジにします」
「さすが広報部。選び方に意味がある」
ふたりは並んでベンチに座る。
水島は、軽やかに話を続ける。
「最近、社内報の文章、ちょっと柔らかくなった気がする。
…誰か意識して書いてる?」
リンコは少しだけ言葉に詰まり、それから答える。
「…意識っていうか、“届いてほしい人”がいると、言葉って変わるんですよね」
「それ、めっちゃいい。俺も“届いてほしい人”になりたいな」
その言葉は冗談めいていたけれど、どこか本気の温度も混ざっていた。
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その頃、企画部の先輩は、共有スペースの奥からふたりの様子を見ていた。
メガネのレンズは白く光っていて、瞳は見えない。
でも、視線の“向き”だけが、静かに何かを語っていた。
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午後、リンコはデスクに戻りながら、ジュースの缶を見つめる。
「…届いてほしい人、か」
その言葉が、昼休みの空気と混ざって、少しだけ心に残っていた。
木曜日は、差し入れと視線が交差する日だった。
誰かの言葉が、誰かの沈黙に重なる午後だった。
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水島くんの軽やかなアプローチが、リンコの心にちょっとした揺れを生み、先輩の静かな視線がそれをそっと見守る——そんな絶妙なバランスの回になったと思います。