第16話:「同期って、たまに鏡になる」** (火曜日)
第16話は、“先輩と陸の同期コンビ”をメインに描いてみました。ふたりの会話は軽口が多いけれど、時折本音がこぼれる——そんな“男同士の静かな深度”が見える回になったでしょうか。
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火曜の午後。
企画部の進行ミーティングが終わり、先輩は自席で資料の修正をしていた。
遠山陸が、缶コーヒー片手にふらっと隣の席に座る。
「…先週からずっと思ってたけどさ、お前って最近“言葉の選び方”が柔らかくなってない?」
「…そうか?」
「うん。前は“伝えるための言葉”だったのに、今は“届いてほしい誰か”がいる感じ」
先輩は少しだけ手を止める。
メガネのレンズが白く光っていて、瞳は見えない。
「…仕事の精度を上げただけだ」
「はいはい。じゃあ“週末に万年筆買った件”は、精度向上の一環ってことで?」
先輩は答えず、缶コーヒーをひと口。
陸は笑いながら言う。
「俺さ、お前が“誰かに向けて言葉を選ぶ”ようになったら、たぶんその人、めっちゃ大事なんだろうなって思ってる」
「…お前、そういうこと急に言うな」
「同期だから言えるんだよ。てか、俺は“無感情メガネ”の感情変化、見逃さない係だから」
ふたりはしばらく黙って資料を見つめる。
でもその沈黙は、気まずさではなく“理解のある静けさ”だった。
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夕方、陸が席を立ちながらぽつりと言う。
「…その人、ちゃんと届いてると思うよ。
たぶん、言葉の“間”で気づいてる」
先輩は何も言わず、万年筆をペン立てに戻す。
火曜日は、同期との会話が“鏡”になる日だった。
言葉にしない気持ちが、静かに整理されていく午後だった。
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どうでしたか?先輩と陸の“男同士の静かなやりとり”が、ふたりの関係性と先輩の内面をじんわり浮かび上がらせる回になったと思います。