第12話:「たぶん、週末のせい」** (金曜日)
先輩の気持ちに一歩近づきたいリンコと、それを茶化しながら背中を押す遥。週末のドアが少しずつ開きはじめる、そんな一話になっているといいなと思います。
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金曜午後4時。
社内の空気は、週末の足音をゆるく含んでいた。
広報部の共有席で、リンコは資料の修正をしていた。
隣に座っている野々村遥が、音もなくゼリー飲料を吸いながらぽつりと言う。
「…それ、“先輩宛て用”じゃない?」
「え、なにが?」
「その言葉の並べ方。普段より丁寧だし、なんか余白に気持ち混ざってる」
リンコは、思わず指で文字の間をなぞった。
「…そういうの、見える?」
「見える見える。てか今週のリンコ、“週末に近づくほど気持ちが甘くなるグラフ”になってるよ」
ふたりで笑ったあと、遥がもう少し静かなトーンで言う。
「先輩、ちょっとずつ変わってきてない?」
「…うん。なんか、距離の測り方が絶妙になってる。無理に踏み込んではこないけど、“気づくように置いてくる”感じ」
「はー、それ好きなやつだ。謎メガネ越しの気配操作。上級者だね〜」
遥はPCを閉じて、言葉を続ける。
「今週、なにが一番心に残ってる?」
リンコは少し考えてから答える。
「会議室の話かな。“伝えたい人がいるなら、言葉は選ぶ”って…それが自分に向けられた感じがして」
遥は頷いた。
「それさ、今夜の思い出にしておくのもアリだけど、明日につながったらもっと面白いと思うよ」
「…繋がるかな。土曜日、偶然とかあるのかな」
「あるある。“たまたま”って、実は一番準備されたタイミングだったりするし」
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午後5時、ふたりの会話はやわらかく仕事に戻っていく。
でも心の中には、“誰かとの距離が変わる予感”が、静かに灯っていた。
金曜の夕方は、週末に踏み出すための“直前の整理時間”。
リンコの言葉の余白に、“会えるかもしれない誰か”の存在がほんのり溶けていた。
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いかがでしょう?遥とのやりとりの中で、リンコが週末に向けて気持ちを整えていく回になってます。