頭痛と朝
三題噺もどき―ろっぴゃくきゅうじゅうよん。
目を開けると、見慣れた天井が広がっていた。
カーテンの閉じられたこの部屋はいつもより暗い。
外は天気が悪いのだろうか……そうでなくても遮光カーテンだから暗いのだけど。
「……」
天気のせいかは、分からないが。
頭が痛い。嘔吐するまではないにしても、軽く吐き気を覚えそうなほどに痛い。
痛みには強いし鈍感な方ではあるが、内から来る痛みはどうにもできない。薬なんてものは効かないから耐えるしかないのだけど。
朝から最悪な気分だ。
「……」
痛む頭を抱えながら、体を起こすと、汗をかいていたことに気づいた。
夏用のパジャマ―と言っても着古されたようなTシャツだが―が、肌に張り付いている。べったりという程でもないのだが、シャツが張り付いたような感覚が胸のあたりや背中の方に点在している。
「……」
寝起きで少し重たい手を動かして、少しでもはがそうと試みる。
手が動くだけでも痛みが増すのだから、面倒だ……時間が経てば治まるだろうけれど。
胸部に張り付いた布を引っ張り、軽く空気を入れてやる。それだけでも少しだけマシになったような気がした。背中は裾の方を引っ張って空気を入れる。
布が張り付いたような感覚は気持ちが悪くてダメだなぁ。
「……」
まだぼうっとする思考の中で、視界は時計の方を確認する。
壁に掛けられているアナログ時計。カチカチと秒針の音だけが部屋に響いている。
針がさしているのはいつもの時間。大抵この時間に目が覚める。
「……」
その視界の端に入り込んでくるのは、決まって空になった鳥籠。
そこに居るはずの蝙蝠は、もうきっと起きて朝食の準備でも始めているのだろう。
私がアイツより早く起きるのはそうそうない。何か予定がある時くらいだ。この間の図書館に行ったときみたいに。
「……」
鳥籠の鍵はいつでも開いている。
拘束するような趣味はないのだ。
いつでも逃げられるようにしている。
けれど、起きて、その姿がなくて、リビングに行ったときに必ずいることに、毎日安堵を覚えているのも確かなので。
アイツが居なくなったら、私もそれまでだと勝手に思っている。
「……」
ううん……。
朝はどうにも思考が回らない。
空の鳥籠なんて見慣れているはずなのに、起きるたびに、よくわからない不安に襲われてしまう。今日は頭痛もあるから尚更かもしれない。
―いなかったらどうしよう。
なんて。
「―おはようございます」
こういう時ばかり起こしに来るのは何なのだろう。
大抵起こしに来るのは時間が過ぎた時くらいなのに。
察しがいいのか悪いのか。
「……お、はよう」
すこし痛みのマシになった頭を抱えながら返事をする。
おはようなんて一言で唇を噛むところだった。寝起きで口が回っていないのか。噛む要素ないだろうこの一言に。
「……大丈夫ですか」
「なにが……?」
「……なんでもないです」
早く起きてくださいね。
何てそう言い残してリビングへと戻っていった。
ホントに何をしに来たのか分からないやつだ。
こちらとしては、はっきり目が覚めたのでありがたいのだけど。
「…………おきるか」
今日もまた、一日が始まる。
「ん、今日は和食か」
「えぇ、たまには」
「「いただきます」」
お題:拘束・噛む・嘔吐