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亡国のステラリア  作者: 黒瀬 行杜
第五章
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第五章 第五節「……まったく、無茶苦茶だよ!」

「こんだけ距離取られてたら埒が明かない!」


ジゼルが舌打ちしながら戦斧を構える。


頭上では小型竜(ワイバーン)たちが再び陣を組み直し、氷弾を構えていた。

射線の先、白い空を裂く氷の閃光が走る。


「オズ!」


エルの声が飛ぶ。


「この小型竜(ワイバーン)、火は効く?」


「ああ、十分だ!」


盾を掲げたオズが叫ぶ。


「インディゴ種は寒冷地に巣を作る。風も氷も水も効かないけど――火には脆い!」


「分かった。でも、数を撃っても避けられると思うんだ。だから――」


「密集させればいいんでしょ?」


ジゼルが遮るように言い、足を止めた。

外套の内から包帯を引き抜き、右脚に巻きつける。


「モジャ! 一時休戦よ!」


オズのあだ名を呼び、にやりと笑う。


「盾を構えて!」


「ジゼル……? お前、何する気だ!」


先ほどまでろくに口もきいていなかったくせに、こういうときの切り替えは早い。


「いいから!」


「……まさか!」


オズが息を呑む。


「エル!」


ジゼルが振り返り、空を指さした。


「一発で全部仕留めなさいよ!」


エルは頷く。

二人から少し距離を取り、手元の指輪――デネボラを一度撫でる。

掌の奥に熱が集まり、紅の光が脈を打つ。


オズが前に出て盾を構える。

ジゼルは助走を取り、雪を蹴り上げて駆けた。

勢いのまま、オズの構えたレメンティアを踏み台に跳躍。


その瞬間、盾に溜まっていた氷弾の魔力が一気に解放される。

爆ぜた風圧がジゼルの身体を高く、真上へと打ち上げた。


宙を舞うジゼル。

灰空を背に、戦斧の刃が紅の光を反射する。

彼女の周囲を旋回していた小型竜(ワイバーン)たちが一斉に反応し、陣形を変える。

翼が重なり、螺旋を描くように彼女を取り囲む。


「今よ――!」


叫びと同時に、ジゼルが包帯を解き放つ。

足に繋がった布が風に弧を描き、地上のオズへと伸びる。


オズは走り出していた。

雪を蹴り、包帯の端を掴む。


「……まったく、無茶苦茶だよ!」


次の瞬間、彼は全力で引き下ろした。

ジゼルの身体が急降下し、竜たちの陣が崩れる。

交差した翼と尾がぶつかり合い、空に火花が散った。


紅に染まった空に影が走る。


その混乱の中心へ――エルが魔力を解き放った。


「行けっ!」


掌から放たれた炎は、純粋な赤。

黒も、影も混じらない。

ただ“命”そのものの熱が形を取った。


轟音が走り、炎の奔流が雪原を薙ぎ払う。

眼下の小型竜(ワイバーン)たちが光に呑まれる――その瞬間。


空が先に吠えた。

横合いから、さらに巨大な火球が飛び込んでくる。

エルの炎を丸呑みにし、赤と橙の渦を描きながら空で爆ぜた。


「――え?」


目を見開いたエルの頬を、熱風が打った。

一瞬遅れて衝撃波が地を叩き、雪が宙を舞う。


真白な世界の中、エルは呆然と立ち尽くした。


* * *


一方、自由落下していたジゼルを、オズは全力で受け止めた。


「ぐえっ……!」


「何が起きたの!」


「ちょっ、待て、立ち上がるな――重いっ!」


オズの腹の上で体勢を立て直すジゼル。

顔をしかめながらも、二人はほぼ同時に同じ方向へ顔を向けた。


――あの火球が飛んできた方角。


地平の先から、白煙がゆっくりと這い上がってくる。

雪を巻き上げ、地を鳴らす。

重い、地そのものが動くような低音。


「……まさか、地震?」


エルが呟く。


腹を押さえながらようやく立ち上がり、オズは首を振った。


「違う、これは――」


次の瞬間、雪霧が割れた。

その中から姿を現したのは、翼を半ば畳み、地を踏み鳴らしながら進む巨大な竜。


老齢のその竜は、飛ぶことをやめた代わりに地を支配していた。

鈍銀の鱗が光を反射し、息を吐くだけで雪煙が吹き上がる。


そして、その頭上に。


「待った待った待った!」


高らかな声が、轟音を突き抜けた。

その声の主は、竜の額の上に立っていた。


黒い長帽子、黒いドレス。

いかにも“魔女”然とした装いに、群青の外套を羽織った女。

銀の髪を編み込み、杖を片手に掲げている。

そして――口元には、あきれ半分の笑み。


「そんな大火球っ! ウチの子たち、丸焦げになるでしょうがぁ!」


その言葉に、三人はただ固まるしかなかった。


老竜はぴたりと足を止め、間一髪で生き残った小型竜(ワイバーン)たちが、帰巣するようにその背へと降り立つ。


雪原に戻った静寂を裂くように、老竜の頭上から大声が響き渡る。


「よくやったな、青トカゲ隊! 久しぶりの実戦にしちゃあ、上出来だな!」


「それに比べてな……ちょっとちょっとちょっと! もう少し頑張りなさいな、スレイヴァン!」


魔女は竜の頭を長杖の先で小突きながら、堂々と説教を始めた。

どう見ても竜に怒っている。


「スレイヴァン! 聞こえてるでしょうが! ……ああもう!」


「久しぶりに火を噴いてお疲れですか! ……まったく、年寄りは扱いづらいんだから!」


叫び終えると、女は軽やかに飛び降り――派手に雪へ突っ込んだ。


「――あ」


どさりと音がして、雪煙が上がる。


「……落ちたよね?」


「ああ、落ちたな……」


エルとオズが目を合わせて確認し合う。

ジゼルは目も当てられないと言わんばかりに、左手で目元を覆った。


雪の中から、くぐもった声。

埋もれているはずなのに、その大声は三人にはっきりと届く。


「ちょっとちょっとちょっと! 見てないで助けなさいな!」


三人は顔を見合わせた。

エルが「行った方がいいかな……?」と呟いたとき――


ジゼルが肩をすくめて言った。


「……あれが“森の賢人”だったら、私は会わないわよ。二人で行って来て」


オズは一瞬言葉を失い、エルは苦笑を浮かべたまま意を決して前に出た。


冷たい風が吹く。

雪の上に転がる帽子がころりと回る。

群青の外套が凍てつく空の色を奪うようにひるがえった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

次回更新は11/25(火)20時頃の予定です!

引き続き宜しくお願いします!

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