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亡国のステラリア  作者: 黒瀬 行杜
第四章
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第四章 第十五節「……もう黒には飲み込まれない」

坑道の闇を割って、巨躯が突進してきた。

土蛇(ワーム)――岩盤すら押し潰しながら、坑道いっぱいにのたうつ胴体をうねらせる。

岩壁が削り取られ、火花のように鉱石片が散った。


「――来る!」


ジゼル・ブラウロットが戦斧を構えて飛び出し、正面から受け止めた。

衝撃は岩盤を揺らすほど。

腕の骨が軋み、足裏が石床にめり込む。


「くっ……! この脳筋がっ!」


押し返す一撃に、汗が滲む。


その隙間を縫い、エル・オルレアンが鉄の剣を振り抜いた。

だが――刃は鱗のような外皮を弾かれ、火花を散らす。


「……駄目だ! 硬すぎる!」


「エル! ジゼルが圧されてる、サポートを!」


後方で状況を見ていたオズワルド・ミラーが叫ぶ。


エルは咄嗟に魔力を編み、ジゼルと土蛇の間に分厚い土壁を築いた。

巨体がぶつかる轟音と共に、壁は一瞬でひび割れ――それでもジゼルに呼吸の余地を与える。


「助かった! けど、土じゃ駄目よ!」


少し下がりながら、ジゼルが声を張る。


「え……?」


エルが目を凝らすと、壁の中央から土がざらざらと削り取られていくのが見えた。


「壁の魔力が薄くなってる……? 突破される!」


オズが叫ぶ。


ジゼルは即座に言い切った。


「生態は通常の土蛇(ワーム)と一緒みたい! こいつら、土を食って進路を作るんだから!」


「なら――!」


エルは歯を食いしばり、崩れかけた土壁のさらに奥に、もう一枚の鉄壁を編み出した。

次の瞬間、土蛇が土壁を食い破り、鉄壁に激突。


轟音が坑道に反響し、足元が揺れた。

鉄をも砕かんとする巨体の衝撃に、三人の全身が震える。


「土を食うって、この地面は大丈夫なのか!」


オズの声に、ジゼルが顔を引きつらせる。


「小さいのならともかく……あのサイズが穴なんかあけたら、坑道ごと崩れるわよ……!」


「……違う!」


エルは壁に手をかざしたまま叫んだ。


「掘る気はない! 無理やり突破する気だ!」


――岩を擦る音が、一度遠ざかる。

退いたのではない。助走をつけているのだ。


次の瞬間、轟音と共に鉄壁へ突っ込んできた。

採掘場全体に大きく反響する衝突音。

鉄壁の中央が大きく凹み、エルたちのほうへ迫り出す。

灯苔が一斉に脈打つように明滅し、坑道の影が波のように揺れた。


「何なんだよこいつ……! 馬鹿力で来るならそれはそれでありがたいけどさ!」


オズが叫び、額に汗を滲ませる。


「次は突破される……!」


エルは歯を食いしばり、ジゼルを振り返った。


「ジゼル……土蛇(ワーム)が硬いのは外皮だけ?」


「……ええ。詳しいわけじゃないけど、中は柔らかいはずよ!」


「なら、口を開けさせよう!」


エルの瞳が鋭く光る。


「……土蛇(ワーム)を、中身から風の刃で切り裂く!」


地を這う音が再び遠ざかる。

今度はさらに深く奥へ――坑道全体を震わせるような勢いの助走をつける。


鉄壁のすぐ手前――エルは坑道の左右を渡すように土の柱を築き、芯に細い鉄骨を通して固定した。


「……準備はこれでよし。ジゼル、行ける?」


「アンタ、中々悪知恵があんのね」


ジゼルは短く笑うと、エルも微笑みで返してジゼルの後方に位置取る。

さらに後方のオズに振り返り、真剣な眼差しを向けた。


「オズ、限界は君が決めて……僕は君を信じてるから」


「任せろ」


オズは不敵に口角を上げる。


エルは一瞬だけ安堵を見せ、すぐにその表情を引き締めた。


「……もう黒には飲み込まれない。絶対に」


深く息を吐いて、両手を広げる。

掌に集った緑の魔力が奔流となり、渦を描き始める。

左手の獅子の星痕(レグルス・スティグマ)が淡く光り輝く。


そのとき――オズは息を呑む。

緑の奔流に、黒が差し込む刹那を目の当たりにしたのだ。

獅子の星痕が一瞬強く光り、直後に淡い輝きへと戻る。

こめかみの内側で低い耳鳴りが鳴り、指先の感覚が一瞬だけ遠のく。

それと同時に、風の魔力はじわじわと黒を帯び、坑道に異質な圧を走らせていった。


――二度目の衝撃音が、洞窟全体を揺るがす。

鉄壁は大きく抉られ、砂利と鉱石の欠片が頭上からぱらぱらと降り注いだ。


「出てきたわよ!」


ジゼルの叫びと共に、土蛇が鉄壁の穴から半身を押し出した。

一瞬だけ硬直し、周囲を探るように鎌首を振る。


その眼前――地面を横切るように築かれた一本の柱。

土蛇は迷わずそこへ食らいついた。


次の瞬間、甲高い金属音が坑道に響き渡る。

噛み砕いたはずのそれは、鉄で中を補強された偽りの柱だった。


「……全く、小人(ドヴェルグ)使いが荒いったらありゃしないわ」


ジゼルは柱を潜り抜け、そのまま土蛇の下顎に飛び乗る。

簡易工房を展開し、光の中から巨大な戦斧を呼び出した。


刃先が閃き――土蛇の口内へ深々と突き刺さる。

顎がこじ開けられ、呻き声と共に獣の口腔が剥き出しになる。


「エル! 刺さったわよ!」


ジゼルの叫びに応じ、エルは黒を帯びた風の渦を両手に抱えたまま駆け出した。

圧倒的な魔力が坑道を震わせ、瘴気すら押し流していく。


「……エル! それで十分だ! そのまま叩き込め!」


オズの声が背を押す。


(……あと少しだ! 黒を恐れるな! オズが……見てくれている!)


エルは跳び上がり、土蛇の下顎の上で一瞬ジゼルと並び立つ。

ジゼルは何も言わず、ただその渦を真っ直ぐに見つめていた。


(……今まで見た中人(ヒューマ)元素魔法(エレメント)と何ら変わらない。)


「なのに――」


「うぉおおおおっ!」


咆哮と共に、両の掌から二つの黒緑の渦が放たれる。

それは風の刃と化し、土蛇の体内を縦横に駆け巡りながら切り裂いていった。


坑道を震わせる、竜巻の刃。


黒を帯びた風の渦は、土蛇の体内を縦横無尽に駆け巡った。

刃となった奔流が内側から肉を裂き、骨を砕き、巨体を切り刻む。


「ギィイイアアアア!」


坑道を震わせる断末魔。

土蛇は狂ったように身をよじらせ、岩壁を砕き、瘴気を撒き散らした。

天井の支保工が軋み、粉雪のような石粉が絶え間なく降り続く。


魔力を解放し終えたエルは息を荒げ、足を踏みしめようとしたが――滑る。

濡れた顎の上、巨獣の粘液に足を取られたのだ。


「エルッ!」


咄嗟に伸ばされた腕。

ジゼルが戦斧を口に突き立てたまま片手で彼を掴み、力強く引き寄せる。


「しっかりしなさい!」


「……あ、ありがとう、ジゼル」


荒い息を吐きながら、エルは頷いた。

黒が滲む視界の中で、確かにジゼルの瞳がこちらを見据えている。


やがて渦は収まり、暴れる力も消えた。

戦斧で顎をこじ開けられたままの土蛇は、断末魔の余韻を残し、完全に沈黙した。


坑道には、湿った息と瘴気だけが名残のように漂っていた。

――だが、静寂の奥底で。

さらに低く、地の底を擦るような「何か」が奥の闇で蠢く気配があった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

次回更新は10/23(木)20時頃の予定です!

引き続き宜しくお願いします!

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