プロローグ
灰色の屋上。
そのへりに、暗い目をした高校生が、眼下の街を眺めながら立っていた。
——たかいな
彼の頬には、数分前に殴打された傷が、まだ赤々しく残っていた。
そのとき無抵抗な彼に暴力を振るった三人組は、彼のちょうど真下で昼食を取っていた。地べたに座り、彼から奪い取った金で買った弁当を、ポルノサイトの動画を見ながら食べている。三人の軽薄な笑い声は、良いか悪いか、彼の元までは届いていなかった。そのため、彼は三人の存在を知らないまま、ゆっくりと決意を固めた。
——死ぬか
頬を伝った血が、ヘリの上に落ちる。本来は目を引くその色も、曇り空の下では、古い校舎の一つのしみにしかならない。
彼は鈍い色の血を見ながら、生まれてきたことを呪った。
こんな人生、初めからなくてよかった。
彼は空虚な瞳を閉じて、人生を振り返った。
父親の死
——鈍い血の色
真っ白な小学校のアルバム
——鈍い血の色
病院のベットに横たわる母親
——鈍い血の色
ヒステリックで暴力的な級友
あまりに何も思い浮かばないため、彼は何度か目を開けて、また過去を振り返る必要があった。その度に血の色が、サブリミナルみたいに彼の瞳に映った。
ほら、やっぱり何にもないじゃないか。
人生の回想を終えた彼はふっと息を吐いた。
——死のう
あとは足を一歩ふみだすだけだった。
誰でもできる、簡単な作業。これからの人生を考えれば、その動作は何万倍も楽で、シンプルなことだった。
でも彼は、そうしなかった。
できなかった。
足が震えていた。
そのまま時間が経過し、昼休みの終わりを告げるチャイムがなる。
彼が諦めて、死に背を向けようとした——そのときだった。
「ごめんね」
聞きなれない声とともに、彼は背後から身体を押されていた。
数分前に望んだとおり、彼は屋上から落ちた。
そして、彼——秋月ハルの意識はこの世界から消えた。




