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星聖エステレア皇国  作者:
番外編
95/100

番外編 エステレア宮殿にて

※板挟み〜偽物の間


「星詠みさま、本日のご予定は……」


 侍女達に朝の支度をしてもらいながら、今日の予定を聞く。時間のある内にと詰め込まれる皇妃教育は目まぐるしく、正直とてもしんどかった。わたしは、本来はもっと幼い頃から始まるはずの一般教養まで不足しているから、余計に大変だった。


(だめだ、気付くと背筋がだれかけてる……わたしは淑女、わたしは淑女)


 馴染みのない人前じゃピンと張っていられる背筋も、慣れた人達の前じゃついつい楽な姿勢を取ってしまいそうになる。それは今、結構疲れているのもあるけれど。


「本日の髪型は楽に下ろしたものにいたしましょうか」

「……はい。ありがとう」

「ドレスもなるべく堅苦しくない物になさいますか」

「……ありがとう……」


 侍女達の優しさに触れて涙が滲みそうだ。

 綺麗なドレスも宝石も、いつもなら心を浮き立たせてくれるけど、それさえあまり心が動かなくなってきていた。勉強の事が頭をちらついてお茶菓子も味がよく分からない。


(今日も食事、一緒に摂れなかった……)


 食事は恐れ多くも皇族の方々と一緒に頂いている。でも公務が溜まっていたウラヌスはなかなかそれが出来なくて、今日はようやく同席出来るはずだったのに。


(急務だなんて。また無理だったなんて……起こしてくれたら良かったのに。せめてごはんくらい、一緒に食べたかった)


 皇妃教育のストレスもあるけど、知らない人だらけの宮殿が心細かった。どこまで心を割って話して良いか分からない。何がタブーかまだあまり分からない。考える程に、渦にはまってしまう。


(……いけない。ウラヌスは頑張ってるのに、わたし愚痴ばっかり。学ばせてもらえるのは、ありがたいことなんだから。こんなに良い待遇で迎えてもらって……)


 綺麗に編まれていく髪から香油の爽やかな匂いが漂ってきて、少し癒された。ウラヌスが選んで与えてくれた物だ。逢えなくても、彼がわたしを気に掛けてくれている証のように思えた。


(ーーよし。今日も頑張ろう)


 一生懸命こなしていればあっという間のはず。朝食までの時間、わたしは今日も自分を奮い立たせていた。




「お次は踊りの授業です。そろそろ移動いたしましょう」

「はい」


 歴史の勉強を終え、小休憩を挟んだら次の授業だ。ダンスはこの部屋では出来ないので移動になる。紅茶の最後の一口を流し込むと、席を立った。

 わたしの心情とは真逆に外は麗らかな日和だ。涼やかな水音に鳥の囀りが彩りを与えている。それから緑の匂い。自然に囲まれると、いくらか心が晴れた。

 小さな幸せを見つけながら渡り廊下を行く。そんなわたしと反対側の渡り廊下から、慌ただしげな足音が聞こえてきた。


(ーーウラヌス!?)


 恋しくて仕方なかった本人がたくさんの臣下を引き連れ、足早に歩いてくる。声を掛けたいけど忙しそうだし、大きな声ははしたないかと思うと口がまごついた。

 でも。


「エイコ!!」


 そんな躊躇い、関係ないとばかりに。

 快活な声と笑顔が一瞬にして、わたしの憂いを吹き飛ばしてしまう。


「……ウラヌス」


 今日も彼は素敵だった。いつ見ても彼はわたしのヒーローだ。


「皇子! なりません、どうか今はご辛抱を……!!」

「どれだけ逢っていないと思っている? ただでさえ離れ離れとなった期間があるのを知っているな。いい加減、少し言葉を交わすくらい良いだろう!」

「それは本当に少しで済むのですか!? 第一、星詠みさまは次の授業へ向かわれている最中とお見受けしますが!?」

「ならば部屋まで送ろう!」

「逆方向ですが!?」


 ……やっぱり、声は掛けない方が良いのかな。

 取り込み中といった様子に一度だけ微笑んで、止めていた足を進めようとした。


「エイコ!!」


 だけど、切羽詰まる声にもう一度彼を見る。


「!?」


 なんとウラヌスは廊下の柵に足を掛け越えてこようとしていた。


(い、忙しいのに!)


 彼を止めようとして、思わずわたしも柵を乗り越えようと手を掛けると、こちらはこちらで騎士に止められる。


「星詠みさま!? 危のうございます。そのような事はおやめください!」

「で、でもウラヌスが」

「エイコ、彼の言う通りだ! 危ないから君はそこにいなさい。おれが行こう!」

「皇子! そういう話ではございません!!」

「星詠みさま、お次の授業がーー!」


 話が混線してる気がする。でも確かに、ドレスで高い物を越えるのは危ない。柵に乗せていた膝を下ろそうとしてーー運悪く裾が引っかかってしまった。


「あ……」


 柵のてっぺんがスローモーションで近付いていく。


(ぶつかる)


 あまりに短い距離にぎゅっと目を瞑った。でもいつまで経っても衝撃はこない。

 おそるおそる目蓋を上げると……真っ暗で、何かに包まれていた。


「ほーー星詠みさま!!」


 複数の声がわたしを呼んでる。状況が分からなくて身じろぐと、急に視界が開けて誰かの胸元が飛び込んできた。


(あ……ウラヌス)


 わたしを抱えるウラヌスと、騎士。二人に支えられて衝突を逃れていた。


「……け、怪我はないな?」


 固い声がそろそろと問い掛けてくる。頷いたら周囲がそれはそれは深い息を吐いた。


「……あの……ごめんなさい」

「無事なら良い……だがドレスでの身のこなしは、もう少し学んだ方が良いな」

「はい……」


 ウラヌスに抱き上げられて、そっと元の廊下に戻される。それから彼はわたしの頭に一つ、口付けを贈るとさっきまでとは打って変わって静かに去っていった。


「参りましょう、星詠みさま」


 その夜。

 家臣の気遣いか、ウラヌスの努力の賜物か。わたし達は無事少しの時間を共に過ごせたのでした。

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