星の記憶
ウラヌスと共にあの山の頂に立ってから、しばらくの時が流れた。
『星詠みさま……!!』
とくに混乱の酷かったエレヅではローダー皇子が冠を戴き、城に監禁されていた星詠み達はついに解放された。
『こんなに遅くなって……ごめんなさい』
『いいえ、いいえ。信じておりました。貴女様が、私達の希望でした……!!』
わたしをエレヅ城から逃してくれた彼女と再会を果たし。お互いが生きていたことを噛み締めあった。
こうして全ての星詠みはエステレアへと帰国し、エステレアとエレヅ間には平和のための協定が結ばれた。
『エイコ、今ならまだ間に合うぞ。我が妃となる気はないか』
戴冠式に参列したわたしに、皇帝となったローダーは相変わらずの調子で言った。
これにはウラヌスが勝手に答えた。
『無理だ』
『……存外、奴は狭量だぞ』
『どの口が言う』
『まぁ、まだ時間はある。気が変われば、いつでも来るといい』
ローダーの軽口に微笑うわたしの耳に届いたのは、後ろに控える仲間達の密やかな話し声。
『好きなら好きと、おっしゃればよろしいのに』
『な〜? ほんと、素直じゃなね〜の』
『お、おい! 皇帝陛下に不敬だぞ!?』
う……嘘でしょ? 聞こえる……聞こえるからやめて。
飛び出した真偽の定かじゃない話。でも変に意識してしまって、いたたまれない気持ちにうつむく。
『エイコ』
そんなわたしを、陽だまりみたいに温かで柔らかな声が呼んだ。
だけどウラヌスじゃない。まさか……そんな思いで見上げると、見たことのない穏やかな表情で、彼はわたしを見下ろしていて。
『ーー愛している』
伸びてきた腕に、抱き込まれた。少しだけ慣れたとはいえ、まだまだ馴染みのない匂いに包まれて、ワッと胸が騒いだ。
大切な、大切な宝物を扱うみたいな抱擁に熱を上げた顔。
周りがとても騒がしかった気がするけれど……全部いっぱいいっぱいになった、わたしには分からなくて。
『ウラヌス殿とローダー陛下が個人的に開戦する前に……お暇しましょうか』
ノーヴの揶揄うような、呆れたような声だけがかろうじて聞こえたのだった。
そしてわたし達は、今日を迎えーー。
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
たくさんの人々が祝福をくれる中を歩く。エステレアの伝統的な式は夜に行われ、星空の下で愛を誓うのだ。
花嫁の後ろには、白い明かりを持った皇女と貴族の若い娘達が続き、その居場所を知らせる。
そして花婿は一番大きな明かりを持ち、待っている。花嫁が道に迷うことのないようにと……。
(わたし、ここまで、来たんだ……)
初めてこの世界に来た時は、ただ絶望していたわたしが、今は愛する人と結ばれようとしている。
(これは物語の終わりじゃない。わたし達は、アザーごと星を眠らせてしまった。これからどんな世界になるのか、誰にも分からない。本当の苦難は……これからかもしれない)
わたし達の選択は、あまりに増え過ぎたアザーの浄化を星に託すこととなった。
ウラヌスの剣はアザーごと星を封印し、世界の混乱は収まった。正確には星は眠っただけで生きている。やがては星の力がアザーの全てを照らし、目覚めの時を迎えるだろう。
それがいつになるかは、分からない。
(でも、一緒に生きるって決めたから……)
どんなに険しい人生だとしても、彼となら、きっと乗り越えていける。
(星よ、待っていて。あなたが少しでも早く目覚められる、世界にしてみせるから)
いつも導いてくれた。良い未来を迎えられるように、警告をくれた。あなたの大切な世界が続くよう……頑張るから。
わたしの行く道を示すような光に向かい、自分の足で進む。わたしの光。地上の光。
「……エイコ」
「ウラヌス……」
星が人の姿を取り、地上に降りたんじゃないかって……そんな風に思うくらい、麗しい姿が迎えてくれる。
二人で星に永遠を誓い、見つめ合う。視界いっぱい白で満たされて、恥ずかしく、でも堪らなく幸福だった。
「ーーようやくだ」
大好きな手が頬を包む。この手に触れられると、わたしは満たされるの。
万感の想いを込めたようにウラヌスは言葉を紡ぐ。それを夢見心地で聴いていた。
グッと近くなる距離に、気恥ずかしくて目を伏せた。
そんなわたしにウラヌスは額をくっつけてきて。
「これできみはおれのもの。さぁ……幸せになろう。我が花嫁」
わたしのーー花婿。
視線だけで見上げると、星の煌めきを宿した青がわたしの視界を奪ったのだった。
fin
ハッピーエンドはここまで
ありがとうございました♡




