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星聖エステレア皇国  作者:
世界救済編
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第72話 遥か昔、邂逅の時

 完全な遠回りとなってしまったけれど、古都バディオンまで飛んだわたし達はそこから件の山を目指していた。

 山はバディオンの反対側。地竜の引く竜車を頼み、手前にあるルジーの村まではやって来た。

 問題はその先。


「村の後ろにあるのは広大な荒地なんだ。昔は穀倉地帯だったらしいのに、オレのひいじいちゃんが生まれた頃にはもう……」


 そう話すルジーの表情はらしくない静けさだった。


「一面の麦畑が壮観だったからさ、時期になると観光客も来てたくらいだってのにさ。畑は小さくなって、ただの田舎になっちまって、観光収入も望めなくなって……」


 彼の実家である宿屋も困窮してしまった、というわけだ。

 言い方は良くないけれど……村は<貧しい>という表現が真っ先に浮かぶような景観だった。

 でも、わたし達はここで一泊させてもらって村人達が腐ることなく懸命に生きているのを知る。みんなルジーのように前向きで、温かくて……。彼はここで育ったのだと実感した。

 それから彼らが口を揃えて出していたのがローダー皇子の名前。


「殿下はこんな田舎にもお目を掛けてくださって……。アタシらが暮らしていけるのは、殿下のおかげだよ」

 

 ルジーのお母さまは言った。

 当人はフードで顔を隠していて、どんな気持ちでそれを聞いていたのかうかがえなかった。でも、部屋に着いたローダー皇子は……重い表情で村を見ていた。

 夕暮れの長閑な風景。赤い陽が、窓縁に腕を掛ける彼の姿に哀愁を被せていた。


「皇子、あの」

「…私にだけよそよそしいのはやめろ」


 予想外の反応にわたしは面食らって、黙り込んでしまった彼の隣にそっと立った。

 振り向きもしない皇子の横顔。いつも抜き身の剣のようなそれが、その時はか細い灯火のように見えて。


「どう……したら良い?」


 出来る限り、柔くあるように接した。多分ずっと、戦い続けてきた彼を傷付けないように。

 すると皇子はようやくわたしを見たんだ。


「……ローダー、と」


 彼の許しにわたしは近付いた。身体の距離じゃない。心をーー寄せた。


「……ローダー……」


 その呼び名にいくらか気を持ち直したようだった。

 王や王子って、孤独なものかもしれない。彼を見ているとそう感じた。ウラヌスだって気丈に振る舞っているだけで、本当はどう思っているのか。

 彼らは国のため身を捧げなければならない。

 その負担を少しでも軽く出来るのなら、早く世界をより良くしたい。早く……早く。

 そんな事を考えて、陽は沈んでいって。

 だけど村を出たわたしが見たのは、更なる過酷な環境だった。




「<屍者の道>と呼ばれる」


 それはーー果てしない荒野。

 大地は硬く隆起し、水脈の気配はなく、渇いた風が獣の遠吠えのように唸りながら吹き抜ける。

 生を感じられない地。どんな生も許さないような景色が、ただただ広がっていた。


「件の山はこの先だ。しかし、この地は放棄されて久しい。何があるかは分からぬぞ」


 ローダーが言うには、ここで枯渇が始まってしばらくは国も改善を試みたらしい。けれどどんなに手を掛けても渇きは止まらず。やがて誰もがここを諦め、人の寄り付かぬ地と成り果てた。

 生きている者は寄らない場所。死んだ土地。ーー屍者の世界と人々は呼んだ。


「行こう」


 世界を救えるのなら、どこへでも行く。

 みんなで顔を見合わせ固い地を踏みしめた。


「ここにも、アザーがいない……。我が国のパライオ大森林のような聖地でもないのに、何故」


 確かに見渡す限り、あの不気味な姿はなく。その不可解さにウラヌスの表情は険しい。


「昔はいたようだ。枯渇が進むにつれ、姿を消していったと聞く。ルジーといったか。そうだな?」

「は、はい! そうです!!」


 ルジーの声はひっくり返っていた。自国の皇子様に、さすがのルジーも緊張しているらしい。

 その後ろでふとノーヴが足を止めた。


「おや…? 何か埋まっていますね」


 彼の言葉に関心を示したのか、ローダーから逃げたのか、ルジーが剣先を使って表面の土をガリガリと削った。ある程度の塊のまま割れていく土。やがて見えたのは、乳白色の固い物。


「……骨、ですわ」

 

 呟いたシゼルがおもむろに付近を削り始める。すると、またもやそれが現れた。

 この不毛な地だ。骨くらい、あるだろう。とはいえ不穏さに静まったわたし達。なぜならそれが、わたし達の未来となりかねないからだ。

 目を細め、終わりの見えない道を眺める。

 遠方の大きく隆起した大地が蜃気楼で間延びして見えた。次の瞬間わたしは我が目を疑う。その前を、巨大な何かが跳ね上がり大地へと帰っていったのだ。


「……いまの」


 放心したわたしの目に、すでに警戒状態のみんなが映る。だけどその様子は普通じゃなかった。


「……アレを知る者はいるか?」


 ウラヌスに誰も答えない。アザーに押され気味だけど、もちろんこの世界にも色んな生き物がいる。でもみんなの反応からしてあれは、まさか。


「誰も知らない生き物が、ここにいるの……?」


 緊迫した空気に、思わず不安が口を突いて飛び出した。そしたらウラヌスがハッとした表情で、わたしの肩を抱き寄せてくれる。


「…アザーじゃないってこと?」

「……そうだ。この地上で誰も知らないかもしれない物が……いる。ローダー、エレヅは少々この地を放置し過ぎたようだな」

「フン…腹立たしいが、そのようだ。いっそう気を引き締めろ。……命が懸かったぞ」


 太くて、長い軀だった。この距離であの大きさなら、相当巨体だ。でもこの世界にアザー以外の怪物はいないはず。

 じゃあアレは、何?

 以後、わたし達はことさら慎重に進む。今しがたあれ程に大きな物を見たというのに、荒野は虫の姿すらなく。鳥一匹通らない空に心音はうるさくなるばかりだった。


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