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星聖エステレア皇国  作者:
バハル自治区編
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第68話 ヴァノ・エマス島

「見えてきたね。ヴァノ・エマス島ーー大して旨みのない島だと放っておいたら、まさか鼠が住み着いていたとは」


 鼻白らんだ様子のナルシス議長。その眼差しの先には輝くような白い砂浜の、美しい島があった。


「綺麗……」


 南国の避暑地を思わせる姿に思わず呟く。するとノーヴ達バハル人が反応した。


「ただ美しいだけ、ですよ。実りもほとんどなく、動物は一個体のみ。彼らにとっては楽園でしょうがね」

「私、初めて来ましたわ」


 美しいだけで十分価値があるんじゃないかな? と思うけれど、バハル人的には違うみたい。バカンスとかに良さそうなのに……。

 まぁ、今はアザー崇拝教の根城と化しているから考えられないけど。


「人影はない…ね。あそこへ乗り付けましょう」

「いいえ、わたしの力で飛んでいけます。その方が一瞬で済みますから。帰りもそうしましょう」


 双眼鏡を覗き込んでいたナルシス議長へ言うと、少し驚いた顔をされた。それから口角を上げて、面白がる様子になる。


「星の力ですか。それは楽しみだ。では君は、私達が去った後は港へ戻りなさい」

「はい。皆様、星詠みさま……どうかお気をつけて」

「ありがとうございます」


 先頭として来てくれた自治区の方にお礼を述べて、力を使う。着いたのは正面に見えていた砂浜の終わり、ただ波音だけが聞こえる静かな場所だった。


「これは素晴らしい。……戦争を止めるなど容易いことではないのですか? 貴女様のお立場と、その星の力があれば」


 褒めてる割に棘のある言い方……。思わずムッとなったけど、自分を落ち着けて答える。


「星の力は万能ではありません。それにわたしは、立場を利用して強引に思い通りにはしたくないのです。それこそエステレアの横暴だと言われかねない。エレヅがエステレアに不信感を抱いているなら、それを取り除き、本当の和解へ導かなければ……意味がないと思いますの」


 ウラヌスに言われて気付いたことだけど。わたしが良かれと思って先走れば、エレヅにより口実と不信感を与えてしまう。異界の星詠みが独立した立場なら話は変わるかもしれないけど……召喚システム上、エステレアに属するのだから。

 わたしの返答に黙り込んで、意味ありげに笑んでいたナルシス議長からシゼルが庇ってくれた。


「意地悪はおよしになってくださいます?」


 やっぱり意地悪だったんだ……。


「おや、これは申し訳ありません。星詠みさまがどのようなお方か知りたく、つい……。大変失礼いたしました」

「……お気になさらず」


 上手い返しは思い浮かばない。そちらがわたしを試したいなら、どうぞ。そんな思いで流した。

 そもそもお願いしているのはこちらだから。彼がわたしを泥舟でないか確かめたいのは当然だと思う。

 シゼルへ感謝の意を込めて、表情だけで微笑いかけた。藤紫の瞳が同じ温かさを返してくれて、嬉しくなる。


(ウラヌスが来られなくて良かったかも)


 彼に寄り掛からずに、済む。自分の足で立とうと頑張っていられる。頑張っていたらみんなも支えてくれる。


「先行こ〜よエイコ。島の真ん中が怪しい、でしょ?」

「うん」


 促してくれたオージェに頷いて奥へ足を進めた。生き物の気配はなく。波音ばかりが耳を涼ませる。

 そこは世の情勢なんて無関係とばかりに穏やかで……楽園かと思わせる場所だった。




 地図によると島の地形は中心が円形に抉れていて、周囲を陸が囲んでいる。例えるなら腕輪のような形だ。

 船を隠すにはうってつけ。人が寄らないなら、なおさら。

 樹々の陰からわたし達はそっとうかがう。


「……当たりだね」

 

 隠されたそこには一隻の船。


「オージェ、シゼル、あの船は偽物……だよね?」

「怪しいねぇ。けど、近くで見てみないと何とも……。流石にいつまでも偽物国旗は掲げてないか、残念」

「船を持ち帰るのは現実的ではありませんし、国旗を探します? 一番お手頃な証拠ですわ。船を廃棄していないなら、まだ使うつもりでしょう。でしたら国旗もあるはず」

「だねぇ……ただ、鉢合わせと罠に要注意かな。オレ達を目撃されたら、また小賢しい工作されちゃうかも。変装用に剥げそうな教団員がいないし?」

「危なくなったら、即撤退する?」 

「……すンごい賭け感がするけど、遭遇さえしなきゃ穏便か」

「何? 賭け事かい?」


 何故かナルシス議長が浮き足立ってる。


「潜入なら、少人数が良いよね。わたしは脱出の判断をするために行かなきゃだから、あとは……一人? 二人? どっちが良いと思う」

「私も行かせてもらいますよ。真実を見届ける、義務がありますので」

「二人。オレも行くぜ」


 議長とオージェが名乗り出てくれた。多分議長は見ているだけだろうから、二人で必ずでっち上げの証拠を見つけなきゃ。


「じゃあ、行こう」

「ひとまず甲板に移動して、中の様子を窺おっか」


 オージェの提案に頷いて飛ぼうとした。だけど聞こえた甲高い金属音に、咄嗟にそれをやめる。


(何? 鉄の扉が開いたみたいなーー)


 音だと、思った時には船の向こうから複数のアザーが現れるのを目にする。


「エイコ! 一時撤退だ!」


 その声に考えるよりも先に、条件反射のように力を使った。突然のアザーに焦ってしまい、どこへ飛ぶかなんて考えていなかった。

 真っ暗な空間へわたしは投げ出される。上も下もない世界で、すぐに後ろから青い光が差しているのに気付いた。


『……を…け…さい……』

 

 なに…? 聲……?


『……ちじょ……かりは……を……』


 くぐもってよく聴こえない。でもこれは星の聲だと理解した。


『なんと言っているのですか? あなたの警告を駄目にして、戦争を起こしてしまいました。教えてください。今、わたしの進む道は間違っていませんか!?』

『……れに……なれの……を……』


 ーー全然分からない。どうしてこんなに星の聲が聴きづらいの?

 振り向いた先に、青い光の球を見た。水面(みなも)のように揺れるその光。それはとても大きく、わたしをすっぽりと取り込んでもなお、余りあるだろう。


『星ーー』


 視界が白く焼けていく。


『待って! 何を伝えようとしてくださってるのですか!? いや、まだーー!』


 まだ話したいのに。わたし達の間を裂くように白は勢いを増して、気が付けばすぐ目の前にウラヌスの姿があった。


「ーーエイコ!!」


 複数の声が被り、彼からは随分と驚いた様子で抱き締められる。あまりに必死な様子に疑問符が浮かんで、身じろぐと少しだけ腕の力が緩んで顔を上げられた。


「ご、ごめんなさい……アザーが現れて戻ってきちゃった。もう一度行くから……」

「君……何故帰城が遅れた?」

「えーー?」


 ウラヌスの指す意味が分からなくて間抜けな声が出る。少しの間無言で見つめ合い、左右を見渡すと一緒にヴァノ・エマス島へ行った一同がウラヌスと同じ目でこちらを見ていた。


「君は彼らよりやや遅れて現れたんだ」

「……星と、話してたから、かも」

「星と? 何を話したんだい」

「……それがよく聴き取れなくて……」


 通常、星からは星詠いの儀によって記憶を授かれるだけで、対話は出来ない。それが星と星詠みが出来る唯一のコミュニケーション。ゆえに今の件をわたしが訊いても、星は答えてはくれないのだ。

 だからこそ、せっかく直接対話出来るチャンスだったのに……。

 不甲斐なくて落ち込むと、前髪を掻き上げるように撫でられた。


「良いさ。星はいつも君に警告してくれる。大切な事であれば、いずれまた伝えようとするだろう」

「……うん。ありがとう」


 優しい言葉に感謝して、次こそは聴き取ってみせると意気込んだ。

 そこでようやく、ここが家臣達もたくさんいるお城の廊下の真っ只中だったことに意識がいく。


「ーーも、申し訳ありません……お仕事の途中でしたのね」


 顔が熱くなるのを自覚しながらソソッと離れた。


「いや、今は大丈夫だ。それより、また行くと言ったが策はあるのか? アザーまでいたんだろう。奴等の真意が判らない以上、何を仕出かすか」

「その事ですが、一つ、試したいことがありましてて……」


 ノーヴを振り返る。突然視線を向けられた彼は訝しげに眉をひそめた。

 メイグーン地下研究所から戻って以降、戦争を止めるのに手を取られて後回しとなっていたけど、今にして思えばこれこそ真っ先にやるべきだったかもしれない。


「ノーヴ、ヤイロさんのもとへ行きましょう」

 

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