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星聖エステレア皇国  作者:
バハル自治区編
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第67話 享楽の麗人

『駄目だ。こうなっては君が出たところで、洗脳だなんだと難癖を付けられるだけだろう』


 エレヅの誤解を解くため、矢面に立つと申し出たわたしにウラヌスは言った。


『では、せめてローダー皇子と話したいです。彼ならきっと分かってくれます!』

『エイコ……いくら第一皇子といえど、ローダーの一存で戦争はやめられない。他ならぬ皇帝と、おそらく重臣にも好戦派がいるだろう』

『……そう、ですよね……』


 もしも皇子が強引に終戦させるとしたら、それは政変を意味するのだろう。

 歯痒さを感じながらも引き下がったわたしに、ウラヌスは玉座の陛下へ向いた。


『しかし話す場は設ける必要があるでしょう。誰に出会すか分からぬまま、迂闊にローダー皇子のもとへ行くのは危険です。まずは私の方で文を飛ばし、機会をうかがいます。同時にバハル自治区へ仲介を打診するのはいかがでしょうか』

『それで良い。バハル自治区への文は私から出そう。和平の使者として、向かってくれるか、異界の星詠み殿』

『もちろんです、陛下』


 工作船の犯人は星詠いによって判明している。アザー崇拝教ーーでもそれを、ただ主張したところでエレヅからは邪教のせいにしたと言われるだけ。だから証拠を掴む必要がある。バハル自治区は区の不利となりかねない話には乗らないから。

 それにアザー崇拝教が何の目的でこんな事をしたのか、真意も知らなければならない。


『一緒に行けなくてすまない。離れていても、君の無事を祈っている。良いかい、何かあったら、迷わずおれのもとへ飛ぶんだ。……何を置いて来ても、連れて来ても、良いから』


 出発前、ウラヌスはわたしを抱き締めて言った。

 戦争対応のため、彼は国に残る。だからわたしがリーダーとして立たなければならない。

 でもオージェ達は着いてきてくれるから、心強かった。

 

『ありがとうウラヌス。……行ってきます』


 まず、わたし達はバハル自治区へ飛んだ。仲介役を担ってくれるか改めて伺うために。向かったのは自治区で最も偉い人、ナルシス議長のもと。


「お初にお目に掛かります。異界の星詠みさま。バハル自治区が議長、ナルシスと申します」


 恭しくかしずいたその人はウラヌスと同年代くらいに見えて、想像よりずっと若かったことに驚いた。

 緑味の強い深い青色の髪に、身を飾る大ぶりの装飾品。立つように願うと、華々しい青年が挑戦的な眼差しでわたしを見下ろした。


「お話はお受けしましょう」

「ありがとうございます!」

「……貴女様がどうしてもと願うなら、証拠がなくとも間に立っても構いませんが」

「え……」


 甘い誘惑が彼から飛び出した。

 だけどすぐにバハル自治区はそういう行為をしないはずと、思い至る。意表を突かれて思わず後ろのみんなを振り返りたくなったけれど、ナルシス議長の目はそれを許さないように感じて。

 ーー試されている?


「……いいえ、証拠は出します。自国の問題に、ご協力いただくのですから」


 わたしの答えに彼は少し満足したように見えた。それからパッと空気を変えて、親しみのある雰囲気でわたしの後ろへ声を掛けた。


「ではお待ちしております。……さて、氷星石の妖精が戯れに来たかと思ったら。シゼル嬢じゃないか。久しぶりだね。君はいつでも美しい」

「お久しぶりですわ。相変わらずですのね」

「フフ。美を愛でるは人生の彩りさ。時に、そこの大男は何をしているのかな? 確かうちの区の者だったと見受けられるけれど」


 議長はさらにガラリと空気を変えて、ぞんざいな様子でわたしの背後へ声を掛けた。バハル自治区の人……ノーヴだ。


「彼女へ投資している真っ最中なのですよ」

「んん? エレヅ少年に連れられて行ったと聞いてるのだけど。マオ討伐はどうなったんだい?」

「諦めましたよ、そんなもの」

「諦めてねーぜ!! マオは必ず討伐する!!」


 勝手に終わらせていたノーヴに、ルジーは元気に宣言した。


「なんだ君だったのか。うちのを連れて行ったのは」

「へへ……不味かったか?」

「ぜーんぜん。好きに使えば良いさ。じゃあま……行きましょうか」


 <は?>。

 何人かの声が重なる。ナルシス議長は鉄扇で口元を隠し、愉しげに目を細めた。


「見ているよ。君達がちゃんと証拠を掴めるか、見物といこうか。場所は判っているのだろう? 世界をかけた旅……楽しい遊行となりそうだね」


 どこか享楽的な人だ。これまで出会ってこなかったタイプに、少しだけ気圧されそうになる。でもわたしは今、国の顔なのだと真っ直ぐ見返した。

 星が示す目的地はバハル領海の孤島。大した資源がなく寄る人もいないという無人の島。様子をうかがうために、ある程度まではあえて小船で行く。

 幸い、エステレア騎士団とエレヅ騎士団が睨み合う海上の真っ只中からは外れている。


『地上を猛りが渡るは、恵みの地と我が庭に静謐が戻らず、恵みの地が刃が守り水の揺籠へ放たれし時。これ過ち。負を盾として<人>は二つに割れるだろう』


 出発前、工作船の正体と共にわたしが詠った世界大戦への経緯。

 戦争が世界全土に渡るのは、エレヅの攻撃が誤ってバハル自治区に及んだ時。人心は不安に呑まれ、世界は二つに割れる。


(エレヅ艦の誤射がいつ起きるかは分からなかった。急がなきゃ。でも、今からわたし達が起こす行動で未来がどう転ぶかも分からない……。もしかすると、結局また悪い未来になるかも。それでも)


 それでも動かなくては。待っていたら、最悪の結末が訪れるだけだから。


(戦争なんて早く終わらせなきゃ)


 悲しむ誰かが、一人でも少ない内に。


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