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星聖エステレア皇国  作者:
バハル自治区編
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第65話 君の目覚めは喜ばしく、しかし

「待って、ウラヌス。彼はあなたと話をしに来てくれたの」


 でもウラヌスの表情は晴れない。


「……庇うのか?」


 心臓を氷に晒されるような、冷ややかな声。

 間違えたらしい。

 敵としての警戒か、わたし達が二人でいたのが気に食わなかったか、その両方か……とにかく間違えてしまった。

 馬鹿な自分を呪った時、繋いだ手を解かれ、軽く背を押された。油断していた脚は容易くもつれて、ウラヌスのもとへ飛び込む形となる。温かな腕はちゃんとわたしを迎え入れてくれたから……ドッと安堵が押し寄せた。


「おかえり……エイコ」

「うん……うん、ただいま、ウラヌス」


 強張っていた身体から力が抜けていく。大好きな匂いを鼻腔いっぱいに吸い込んで、胸に顔を擦り寄せて。その鼓動にようやく深い息を吐けた。


「すぐに助けてやれなくてすまなかった。独りでどんなに恐かったかーー」

「良いの。絶対また逢えるって、わたしがどこにいるか感じてくれてるって信じてたから……」

「……そう、か」


 ……あれ? 何か今の声……。

 微かに覚えた違和感に顔を上げる。だけど優しい微笑みが降ってきたから、気のせいだったかと思い直した。


「エイコー!?」

「……ルジー! みんな!!」


 ウラヌスの向こうから旅の仲間が駆けて来る。全員揃った姿にヨランダが告げた仲間の死は、何もかも嘘だったと確認出来て胸が詰まった。


「エイコ!! 生きてるって分かってたけどさ、本当に良かった。ごめんな……!!」

「オージェ……心配かけてごめんね」

「いいえ。あなたを守れなかった私達の落ち度ですわ。……申し訳ありません」

「お怪我はありませんか、エイコ嬢」

「大丈夫だよ。誰も謝らないで。また会えて……嬉しい。それで良いでしょ…?」


 みんなとも抱き合って再会を喜んだ。そんなわたし達を庇うように、ウラヌスはローダー皇子と向き合うことをやめないでいる。


「エイコを攫っていったのは君の配下か?」

「ち、違うのウラヌス。彼の命令とかじゃなくて、ヨランダが勝手にしたことなの。皇子はわたしを連れ出してくれたの…!」

「…………君はそんなに、奴に肩入れしていたか」

「えっ……」


 そんな……。どうしよう、ウラヌスの皇子への印象は最悪のままだ。

 しかも皇子はまたウラヌスを煽り始めてしまう。


「フッ……気でも狂いそうな有り様だな。エイコの変化が恐ろしいか。そなたでは真に理解し得えぬ想いを、私達は分かち合ったのだ」

「…………」


 まず過ぎる……このままじゃいつもと同じ。せっかくローダー皇子が対話する気になってくれたんだから、この機は絶対に逃しちゃ駄目だ。

 わたしは勇気を振り絞り、暗雲が立ち込める二人の間に割って入った。


「お、お願い。争わないで。こうしている間にも世界は終わりに向かってるかもしれないのに……。やっとわたし達、話せる状況になったんだよ。話そうよ! みんなで……世界をより良い方へ導こうよ。平和を望む気持ちは、一緒でしょ……?」


 ウラヌスは面食らった顔をする。それから何故か皇子を睨んで、何かを言おうと口を開閉させた後、結局忌々しげに歯を食いしばるに留まってくれた。

 それからわたしを見る。どこか遠い眼差しに感じたけれど……それは瞬く間だったから、錯覚だったかもしれない。

 温かい手がわたしの頬を撫でる。儚い白銀色の睫毛が、青に掛かった。


「そうか。ついに君は……おれと同じ方を向いたのだな」


 同じ方向を……。


(ようやく、向けた……の? ウラヌスと同じ先を、見ているの?)


 未来の皇妃として。異界の星詠みとして。


「他ならぬ乙女の願いだ。話をしよう……ローダー。世界の存続の為に」

「久しいな……ウラヌス。時間はない。手短にいくぞ」


 ーー星聖エステレア皇国と大エレヅ帝国。その国交は拗れて久しい。


『現エレヅ皇帝の正妃は、我がエステレア現皇帝の妹姫が輿入れした』


 わたしがエステレア宮殿にて皇妃教育を受けていた折に、ウラヌスから聞いた話だ。


『え……それって、ウラヌスの叔母さまってこと?』

『そうだ。長姫であった叔母上は友好の為にエレヅへ嫁がれた。それは長年不穏だったエレヅの内情を探る意味もあったが……結果、二人はとても仲睦まじい夫婦となられたと聞く』

『そうなんだ。でも…亡くなられたんだよね』

『ああ。難しい病に罹り、治療の為と特例で一時帰国の話が出たのだが、皇帝は叔母上をどうしても手放せなかった。結果、叔母上は亡くなられ二国の間には……明確な禍根が残ってしまった。まだおれが幼い頃の話さ』


 国へ返せば、もう二度と話せないまま別れの時を迎えてしまうかもしれない恐怖。結局皇妃様は早逝されてしまったけれど、最後まで家族は一緒にいた。それでも悲痛なだけのお別れだったのか、一抹の幸福があったのか……。それは本人達のみぞ知る。

 ただ皇帝と皇子は未だ深い悲しみを抱え続けているんだろう。初めて会った頃の二人の顔……今なら解る。

 だけど悲しんだのはエレヅだけじゃない。だからエステレアとエレヅの間にはハッキリと亀裂が入ってしまった。


(だけどウラヌスとローダー皇子、二人は従兄弟……幼い頃は一緒に遊ぶこともあったって、言ってた。まだ二人がその頃の温かさを覚えているなら、きっと変えられる。国を、世界を)


 星を主と考えるエステレアと、人を主と考えるエレヅ。信仰は違えど、彼らが地上の幸福を願っているのは同じなんだもの。

 わたし達は人目につかない草原の崖下に隠れて、輪になった。


「君が話しに来たということは、エイコの視たものについて何か心当たりがあるのか」


 話を切り出したのはウラヌス。皇子はわたしを一瞥した。


「……我が民の間で密やかに流れている噂だ。異界の星詠みが召喚されたにも関わらず、公の場に出て来ぬことを<エステレアが異界の星詠みの力を独占し、自国のみの繁栄を企んでいる>と」

「それは違います、殿下! エイコが公の場に出られないのはーー」

「ルジー、彼は理解しているさ。エイコを狙い続けたのも、紛い物の星詠みを送り込んできたのも……他ならぬ彼の国なのだから」

「じ、じゃあその噂の誤解を解けば……!」

「噂の出所が皇帝陛下、ですよね?」


 オージェの確信を持った問い掛けに皇子は頷く。


「緘口令が敷かれている筈の召喚の事実が、急速に平民にまで流れている。噂と共にな」

「他ならぬ皇帝が舵を取り、国民の不安を煽っている、とはな。……近頃、兵の演習が増えているそうだな?」


 演習が? まさか……。

 嫌な予感に脈打つ鼓動を感じる。


「そうだ……私が不在の間に、父上は……!」


 ーー戦争の準備を、進めていたーー?


「…わ、わたし、出れる! もう星詠みの力を扱えるようになった! 胸を張って名乗れるよ。そしたらエレヅはエステレアを不審がる理由を失くすよね?」

「力を取り戻したのか、エイコ!?」

「うん…ローダー皇子のおかげで、欠けたものが解ったの」

「何……?」


 わたしはウラヌスとローダー皇子を交互に見て言い募った。何が開戦理由となるか判らない今、理不尽な言い分は潰せるものなら潰しておきたい。


「力の心配はなくなったし、皇子が味方ならエレヅも怖くない。場を設けられないかな」

「……各国王族を招き、エイコの御披露目も兼ねて会談を開くか。星詠みによる予言、世界の混乱を議題とすればエレヅも来ざるを得ないだろう。いや、必ず来る。そうだな?」

「良いだろう。必ず父上をお連れする。では早急にエステレアへ帰り、文を寄越せ。星詠いの儀によって判明した開戦の原因が異なった場合も、早急に連絡しろ」


 歯切れ良く言い放つと、皇子は話は終わりだとわたしを見た。


「帰城に時間が掛かると怪しまれる。そなたの力で送ってはくれぬか」

「あ…もちろん!」

「おれも行こう。エイコ、無理をすることになるか…?」

「大丈夫。さっきのでなんとなくコツが分かったの。みんな、すぐ帰ってくるから」

「ええ。お気を付けて」


 自分の中に感じる力の流れに意識を向けて、向かいたい場所、連れて行きたい人達を思い浮かべる。すると青い光ーー星の力が発現した。

 それからはあっという間にエレヅ城内の一室へと着く。


「感謝する」


 ただ一言告げた皇子。今から彼にはわたしを取り逃した汚名が降り掛かるというのに……凛然と立つ姿に、ふと思った。


「……協力を頼める人は、いる?」


 わたしの問い掛けに彼は不意打ちをくらったと言いたげな表情になって、それからわずかに目元を和らげた。


「要らぬ心配だ。……会談の成功を考えていろ」

「……はい。ありがとう」


 そしてウラヌスとローダー皇子は顔を見合わせ、お互いの意志を確認するように頷き合った。

 戦争、アザー暴走、アザー崇拝教の動きと真実を確かめたいことが溜まっている。エステレアに帰ったらさっそく星詠いの儀を開こう。皇子の話からして開戦のタイムリミットは迫っている。


「開戦を回避した暁には、いい加減星詠み達を返してもらうぞ」


 ウラヌスの言葉に皇子は答えなかった。でも、拒否もしなかった。返ってきたのは微妙な反応。

 迷いが生まれた。

 ……そんな表情だった。

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