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星聖エステレア皇国  作者:
バハル自治区編
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第55話 真の敵は誰か?

50 真の敵は誰か?


「エイコ!!」


 誰かがわたしを呼んだ。茫然とアザーを見上げる目を、チカッと反射光が焼いた。


「アザーの暴走に巻き込まれるのは、貴様かもしれぬな。エイコの事は私に任せ、もう楽になると良い。肩の荷が下りればその不穏な眼光も和らぐことだろう」

「ははは……君のような輩を払う苦労も、おれの義務であり特権さ。おれ達の愛を盛り上げる、香辛料(スパイス)くん」


 二人の背中と倒されたアザーが映る。交わっていた二つの刃は今、残るアザーへと向けられていた。

 どこからか放たれた火の星術が噴き上がる。火球がわたし達の方へ飛んできて、ウラヌスとローダー皇子に庇われながら倒れ込んだ。

 

「離れるな、エイコ」


 二人に耳打ちされた警告。事態についていけないながらも、なんとか頷くと彼らはわたしの左右で剣を構えた。互いよりもアザーの掃討を最優先にしたらしい。


「この数……うっかり仮面の下を見なければ良いがな!」

「仮面が剥げたら君を呼んでやろう!」


 諍いながらもアザーへ斬り込んでいく。


(じ、邪魔にならないようにしなきゃ……)


 わたしは明らかな足手纏い。でも避難するメリットより一人になるリスクの方が高いから、ウラヌスはここにいてくれる。

 生き物のはずなのに、どれだけ傷付けられようと血どころか体液さえ出ないアザー達。その不気味な手がわたしへ伸びる度にどちらかの剣が斬り捨ててくれた。それでも当然、他のアザーで手一杯な時もあって……。


(あーー)


 黒い手が触れる。

 瞬間、ひやりとした心地に支配された。心臓が氷に晒されたような、そんな。だけどーー。


「危険が迫ったならば、声を上げないか!」


 頭上高く飛ばされた腕。わたしのすぐ側でローダー皇子が声を荒げた。それはいつものことだけど、でも、いつもと違う。


(ローダー皇子が、わたしを守ってくれた……)


 その考えをすぐに否定する。彼がわたしを庇うのはわたしが異界の星詠みで、利用したいから。……それだけだ。


「あまりきつい物言いばかり繰り返すのはやめてくれないか! 彼女は泡のように繊細なんだ」

「フン…甘やかすばかりではこれの為にならんだろう!」


 共闘しているようで二人の言葉は争ってばかり。しかも粗方のアザーが片付くとーー二つの刃は再び交わってしまった。

 まだアザーはいるのに!

 戸惑うわたしの前で、ウラヌスとローダー皇子は首を狙い合う。けれど二人の気迫にお構いなしに手を出したアザーは、見事な返り討ちに遭っていた。さっきまでアザーに集中して駆除していたのに。もはやついでと化している。

 どんな凶暴そうなアザーも今の彼らには目に入らないようだった。


(どうしよう……いずれはぶつかる相手かもしれない。でも、こんな状況で……!)


 二人は強い。だけど今はお互いに加えて敵の大群まで相手取っている。倒しても倒しても新手が向こうからやってくるこの状況。本当に暴走に巻き込まれるなんてことが、起きてしまったら。

 活路を探して、だけど見つかりそうもなくて鼓動ばかり早まっていく。そんなわたしに警告とばかりに星が授けてきた記憶。

 それはーー二人で何かと戦うウラヌスとローダー皇子の姿だった。


(これ、今のこと? ……違う。ここじゃない!)


 まるで互いの傷を庇い合うように動いて、これじゃまるで……共戦しているような、そんな風に見えて。

 ほんのわずかな記憶を見せて光景はフッと消えた。


「ーーま、待って! 争わないで。ウラヌス! 皇子!」


 困惑と、強く訝しむ視線が向けられる。当然の反応だ。でも今、二人は争うべきじゃない……星がそう言っている気がしてならなくて、わたしは必死に言い募る。


「まだまだアザーはたくさんいるもの! 今はアザーを……!」

「心配いらない。全て葬ってみせるさ。もちろん君を守り抜いてな」

「お前は己が身の安全だけを考えていろ。また大怪我でもしようものなら事だ」


 駄目だ……聞いてくれない。

 二つの剣筋は心を表すが如く鋭く。どうしても決着をつける気なんだ。それでも……とめなきゃ。


「お願い、おねがい……! 星が言ってるの!!」


 わたしが近付けばとまると思った。案の定、驚きの声と一緒に剣戟はやんで。

 その隙を、一体のアザーに突かれた。息が掛かりそうな程にわたしへと顔を寄せたアザー。塗り潰したようだと思っていた白は、存外青みがかっていたと知る。眼窩の奥の底知れない虚無がこちらを捉えていた。

 夜色の手が仮面を掴む。不自然に震える手。

 ーー仮面を、剥ぎ取ろうとしている。


「エイコ!!」


 複数の声がわたしを呼んで。

 次の瞬間には双刃と鞭がアザーを叩きのめしていた。


「間に合ったようだね」

「……フブラヴァ!」

「久しぶりじゃないか。エイコ、ウラヌス。……そちらはどなたかな」


 勇壮なる(ヴァレントスパーダ)の右腕フブラヴァ。

 確か以前発生した、帝国付近のアザー暴走で面識があるばすの彼とローダー皇子。辻褄の合わない発言に皇子を見ると、フードを深く被り直していた。

 彼が陰の落ちた瞳でわたしを一瞥する。スッとその目を細めると……身軽にアザーの軀を飛び越え、マントをはためかせながら消えていった。


(行っちゃった……)

「決着を逃したか……」


 小さくウラヌスが呟く。

 彼はーー倒さなければいけない相手なのだろうか?

 星が見せた記憶が、わたしを迷わせる。


「おや。我々に挑みたいもの達がまだまだいるようだね。話は後にしようか。ベガも張り切っていることだし」

 

 フブラヴァの言う通り、少し離れた場所で強力な星術を繰り出す少年が一際目立っていた。


「勇壮なる剣のおかげで戦力が増したな。おれ達は負傷者の救援に回ろう」

「う…うん!」


 激戦の中へ突っ込んでいったフブラヴァを見送り、ウラヌスと一緒に怪我人を助けにいく。その最中に仲間のみんなとも合流した。

 勇壮なる剣の団員達はさすがアザーとの戦いに慣れていて、対アザーのプロ集団だと改めて思い知る。ビエンド渓谷で会った四人以外にもたくさんメンバーがいたらしい。みんな統一感のある衣装で遠目にも分かりやすかった。


「アザーの群勢が蛇みたいに長くなってる……」

「そうだ。戦う内に奴等はすっかり間延びして、瓦解し始めている。終わりもまもなくだろう」


 元の世界で大昔にあった戦いみたいな状況だなぁ。

 アザーの列は細く長く、怪我人を追っていくと次第に別の街が見えてきた程だった。そしてそこからも助っ人が出動している。

 街の中へ運び込まれていく人々。話を聞くと、街中に救護所を敷いているらしかった。


「オレ達は負傷者を運ぶから、ウラヌスは手当ての方へ集中して良いよ」

「頼んだ。オージェ、みんな」

「任せて〜」

「わたくし、少し母の実家に行ってきてもよろしいかしら? 支援物資をふんだんに調達してきますわ。エイコも一緒に行きましょう」

「それは助かるだろう…ありがとう、シゼル」

「もちろんですわ」


 それぞれが役割を果たしに向かうため、もう一度別れる。わたしはシゼルのおまけどころか、またお守りをされているんだと……思う。


(でも耐えろって、言われた。この悔しさをバネに……いつか、わたしにしか出来ないことを成す日のために)


 悲観しないで、些細でも出来ることをしていくんだから。それが今のわたしの戦い方なんだ。

 

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