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星聖エステレア皇国  作者:
バハル自治区編
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第50話 灰色の番人たち

 木々がほとんどなく、背の低い植物が生い茂る見晴らしの良い景観。その広大な自然の中へぽつぽつと在る水たまり。わたし達は湿原を進んでいた。


「わ、カエルだ! 可愛い」


 葉っぱの舞台にちょこんと座った、小さな生き物が目に留まる。ふっくら丸くて、眼が薄青だった。

 中腰で眺めるわたしの隣にルジーが同じ体制で立つ。


「スゲー! 緑だし、眼が青だ! エレヅじゃ見たことねぇ種類だなぁ!」

「そうなんだ。エレヅのカエルはどんなの?」

「だいたい茶か橙だぜ。たまに赤がいるな! 子供の頃は赤いやつを探して駆け回ったな〜」


 昔を懐かしむ様子のルジーに、オージェとウラヌスが会話に参加した。


「オレ達も虫とか探して遊んでたよな〜。木登りして何回怒られたことか」

「部屋へ連れ帰っても怒られたな」

「ふふ、二人にもそんな時代があったんだね。どこの世界の男の子も、やってることは一緒なんだ」


 とくに今のウラヌスからは想像出来なくて、おかしさに微笑う。シゼルから聞いた話もあるし、子供時代にみんなと出逢ってたら楽しかっただろうなぁと思い描いた。


(でも、お人形遊びはさすがにしないかな?)


 戸惑っても、きっとそれはそれで可愛い。


「ここには大型の生物がいませんから、彼等にとっては楽園なのですよ」


 ノーヴの言葉によく目を凝らして、周辺を観察する。そうしたらたくさんの小さな生き物が見えた。植物も水も豊富で、確かにここは生きるのに最適そう。

 水たまりの中を泳ぐ小魚や虫をルジーと覗き込んだ。それから遠巻きにいる二人へ話を振る。


「ノーヴとシゼルはこういうの、あんまり興味なかった?」

「そうですねぇ……私は珍しい石を探す方が好きでした」

「分かるぜ! それも好きだった!」

「懐かしいー! わたし、貝殻とかシーグラス集めてた」

「……エイコ嬢、シーグラスとは?」

「え? 呼び方違うのかな。ほら、浜辺に流れ着く丸くなった硝子の破片だよ」


 みんなの顔には疑問符が浮かんでいた。わたしは察する。

 

(ーーあ……この世界、ないんだ)


 こんな事でも世界の違いを実感するなんて。


「……多分、海に捨てられたゴミが元なの。ないなら、それは素敵なことだと思う」


 多分もう、帰れない世界のことなのに切なくなった。そんなわたしにウラヌスが優しく言葉を掛けてくれる。


「そうか。でも、綺麗な物なんだろう? エイコのような子が拾っていたのなら、その分、海も綺麗になっただろうな」


 ……無言で彼の腕に抱き付いて、顔を寄せた。

 彼の優しさに胸が締め付けられる。わたしの思い出、その美しさが、守られた気分だった。


「エイコの思い出は可愛いねぇ。浜辺で女の子が貝殻集めとか、字面だけで可愛くない?」

「シゼルはどんなだったんだ?」


 ルジーから改めて話題を振られ、シゼルははんなりと答える。


「高い所に上るのが好きでしたわ」


 斜め上の角度から切り込まれた。ルジーは無言で口を開けてる。

 その隣でオージェが半目になって、ウラヌスはまじまじとして反応した。


「見る度とにかく高いとこにいたよね……」

「君の高所への執着心には目を見張るものがあった」

「わたしもしてた……!」

「あら、では機会があれば、一緒に上りませんこと?」

「上らない」


 ウラヌスが勝手に答えてしまった。

 そうして話しながら穏やかに湿原を越える。途中、小雨が降ったけれどすぐにやんだから、なんてことなかった。

 でも問題はここからだった。

 いつの間にかどんよりと薄暗くなっていた空に、湿った空気。枯れたような色味の木々がそこかしこに生えた、おどろおどろしい景色。


「ここから例の沼地です。これより先の生物は毒性を持つものが多い。極めてね。……お気をつけて」


 楽しいハイキングの終わりである。


「ノーヴさん、ちょっとい?」

「何でございましょう、オージェ殿」

「あそこにさっそく不気味なものがいるんだけど……何?」


 オージェが指すのは多分みんなが気になってたもの。

 沼地の入り口から少し先に、こちらをうかがうように、あるいは監視するように座り込む、泥人間のようなものがいた。


「ああ、あれは知人が作った泥人形です。大雨が降れば消えますから、お気になさらず」

「気になるんだよなぁ……」

「しかし……まだ何体かいるはずですよ。今から気にするには早いかと」

「もう差し支えてんだよなぁ……」


 ノーヴ以外の全員が嫌な顔をしていた。


「大丈夫……? 魂とか、宿っちゃったりしてない……?」


 ウラヌス越しに問い掛けたわたしの疑問を、彼は笑い飛ばす。


「芸術という意味では、宿っているのかもしれませんね」


 そういう意味じゃないっていう空気が、ノーヴの輪郭を除いて流れた。

 もう剣を抜き済みだったウラヌスも問いを重ねる。


「何のために作られた物だ?」

「さて、私にもよく……。おそらくですが、追手を恐れて威嚇の意味で作ったのではないかと」


 不穏な因子が追加されてしまった。


「片脚を失くしたのだったな? 正気も……。何故このような物を作れるのだ」

「世話役が言うには、突然沼地を這い回り生成するようです。雨で跡形もなくなろうと、何度も何度も……。おかげで毒によってただでさえ人々が寄り付かなかったのが、今では禁足地扱いです」


 誰もが閉口した。

 正気じゃない人が、あんなに人間の形を捉えられるものなのかな。

 その不安定な感じが余計にこわい。泥人形は真っ向から正確にこっちを見ている。

 だけどわたし達は進むしかない。救国のために、救世のために危険は承知だ。


「では参りましょう。お足元に注意を」


 足元なんか見てられないよ。

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