第43話 緊張のお茶会
皇都から連れ戻されて、わたしはかつて旅したみんなと一緒に客間に通されていた。ウラヌス、オージェに始まりシゼル、ルジー、ノーヴ。お茶やお菓子、軽食の準備が整った卓の前で向かい合って腰掛け、でも視線はわたしに集中している。
「遅くなってしまったが、ようやく場を設けられた。君が会いたがっていた者達だ。茶でも楽しみながら好きに語らうと良い」
優雅にお茶会を開く顔ぶれなのかな?
わたしの疑問が口から出ることはない。
「えっと……」
大体、みんなの顔は優雅にお茶会って顔じゃない。
とくにルジーとノーヴはずっと何か言いたそうだし、オージェとシゼルもよそよそしいというか、他人行儀というか……。こんな緊張感の中で何を話したら良いんだろう。会えたら話したいことはたくさんあったはずなのに、言葉が浮かばない。
だけどみんなの様子から、ピンと察する。
(そっか! わたしが星詠みだから遠慮されてるんだ)
ウラヌスが言うには異界の星詠みの身分は相当高い。でもわたし自身にそんなつもりはないから、それが原因だとしたら……寂しい。
「あ、の……みんな、お久しぶりです。会えて嬉しい。その節は本当にお世話になりました」
これわたしも堅くないかな?
応えてくれたのはオージェだった。
「私も嬉しいです。城下で一悶着あったとお聞きして心配しておりましたが、ご無事で良かった」
……寂しい。
「あの……出来たら、旅をしてた頃みたいに話して欲しい、です。公の場じゃないし……寂しい」
みんなと視線を交わしながら伝える。するとウラヌスが後押ししてくれた。
「それがエイコの望みらしい。どうかこの場はただ彼女の友として、語らってやってはくれないか」
ウラヌス……!
優しい言葉に彼を見ると笑顔を返してくれる。それからようやくオージェの、懐かしい口調を聞けた。
「変わんないねぇ、エイコは」
「オージェ……! ずっと話したかったの。お城に着いてからオージェもシゼルもあんまり話してくれなかったの、わたしが異界の星詠みだったから?」
「身分が違うからね~。公の場だとどうしてもねぇ。でもさ、エイコの噂はいつも聞いてたよ」
「色々とお勉強を頑張っているようですわね。偉いわ」
「! えへ……」
シゼルに褒められて嬉しくなる。
でもそういえば、今日の午前中の勉強は泣いてしまったんだ。……あれ、午後の皇妃教育はどうなってるんだろう。
午後からもあること、ウラヌスに言わなきゃ。そう思って慌てて彼をもう一度を見れば、まだ何も言っていないのに落ち着いた返事が返ってきた。
「午前の教育を終えてからまだ昼食を摂っていないだろう。軽食も用意させたから、今日は教育の一切を忘れて休むんだ」
「え……で、でも……」
「君は良く頑張ってくれている。こんな日があっても構わないだろう?」
「そうだよエイコ。もっと休みた~いって言わなきゃ」
「頑張っているのだから、皇子にご褒美をおねだりしてはいかが? ドレスの一つでも贈らせたら良いのではなくて」
「ドレス!? そ、そんな」
「良いぞ。エイコ、何でもねだってくれ。ドレス、宝石、おれの愛情……君の望むものを用意してみせよう」
「!?」
「皇子、エイコが混乱していますわ」
話があらぬ方向に進んでいる。そう思った時、場の空気を裂いたのはルジーの声だった。
「ちょっと待ってくれよ! エイコが異界の星詠みってアンタらはいつから分かってたんだよ!」
それはもっともな疑問。そもそもルジーと出会った時はまだエステレアの令嬢設定だったし、エステレアで再会して本当の事を話し合ってからも、ウラヌス達がわたしをどう位置付けているのか結論は出なかった。
ルジーの戸惑いに、朗らかだったウラヌスは一変して真面目な顔で応えた。
「久しぶりだなルジー。ほとんど最初からだ。おれとオージェがエイコと出逢った、その時から」
「じゃあ……何でマーヴスネットの近くでエイコは一人だったんだよ。こんな女の子が、たった一人で倒れてたんだぜ!?」
「ル、ルジー! それはわたしが悪いの!」
それに関してはあまり触れないで欲しい。ウラヌスは何も悪くないし、わたしもいたたまれない。
「そうか……マーヴスネット付近にいたのか。エイコ、すぐに見つけてやれなくてすまなかった。もう決して、君を見失いはしない」
妙に説得力がある。あの謎の力を注がれてしまった件からして、多分わたしは今後、物理的に把握されるんだ。
「あれは、わたしが勝手に勘違いしてお城を飛び出しちゃったせいなの。それがなんでマーヴスネットで倒れてたのかは記憶にないけど……」
「……まさか、あれはエイコ嬢だったのか!」
ずっと黙っていたノーヴがここにきて謎の発言を投下する。でもその言葉に、なぜかルジーまでハッとした表情で彼を見た。
「あの流れ星か!?」
「そうだ。あの時、君が探しに行った隕石は見つからず、代わりにエイコ嬢が倒れていたな。そもそもあれは、エイコ嬢だったのではないか?」
「ノーヴ殿、だったか。その光は何色だった」
「……青、でしたな」
「エイコ。あの日、おれの手を振り払った君も、青い光に包まれていたな?」
棘を感じる。小さくて細い、でも無数の棘を。
もう一生根に持たれるのかな。己の愚かさを悔やんでも過去は変えられない。硬直するわたしを他所に話は進んでいく。みんなの視線がわたしから外れたのを見て、ぎこちなく紅茶を一口頂いた。




