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星聖エステレア皇国  作者:
星聖エステレア皇国編
39/100

第38話 救国の乙女と婚約者

 ウラヌスとの誤解が解かれ、善は急げとエステレア皇帝陛下に謁見することになった当日。

 侍女の方々によって、朝からわたしは色々と磨かれた上に、見るからに高価な衣装を着付けられていた。


「なにぶんお急ぎとのことで、星詠みさまの寸法をお計りしたお衣装を作ることが出来ませんでしたが……まーあ! 誂えたようでございますこと」


 身支度を手伝ってくれるミーヌが感嘆の声を上げる。

 聞いた話によると、わたしが見つかり次第早急にお披露目を予定していたらしく、衣装縫製の時間すら惜しまれた。それで、どうしたか。それがどうもウラヌス、オージェ、シゼルの見立てで一か八かで仕立てられたらしい。

 しかもそれがミーヌの言う通り誂えたようなしっくり感で……。わたしとしては結構衝撃だった。

 エステレアの衣装は見た目の優美さの通り、生地が繊細で軽い。白、青、藍、そして銀で彩られた衣装は星詠みの方々と似ているけれど、作り込み具合や刺繍が違った。エスニックな雰囲気の中に、聖職者らしい清廉さと神秘さで信仰を感じさせる。


「失礼いたします」


 侍女の一人が耳飾りを手にしていた。レンという女の子が付けていた物と色が似ている、けれどデザインが異なる物。

 多角的に磨かれた天穹色の石が揺れて、清らかな光を放った。


『ウラヌス……わたし、よく考えたら礼儀作法とか分かんないよ。どうしたら良いの』

『大丈夫だ、今から簡単に流れを伝える。どうして良いか分からなくなった時は、ただ微笑んでいると良い。おれや周りが何とかする』

『ほ、ほんと?』


 朝早くからウラヌスと交わした言葉を反芻する。

 昨夜は勢いで乗り気になってしまったけれど、一晩経ち頭が冷えると、皇帝陛下や貴族の方々にこんな庶民がお披露目されるなんておそろしい。特にあの女の子と比べるとその差は歴然。

 どうしよう、こんな平凡な娘が異界の星詠みだなんて、とか思われたら。

 ーーでも。


「お綺麗でございます、星詠みさま」


 ミーヌや侍女の人達が心からだと感じる微笑みで、うやうやしくかしずいてくれる。

 期待されてるんだって身に沁みるようだった。


(やるんだ、国を、みんなを助けるんだ……。わたしは歓迎されてここにいるんだから大丈夫)


 懸命に自分に言い聞かせて奮い立つ。

 鏡に映るわたしはそれは美しく着飾って、我ながら悪くない。後は中身だ。本物の気品や自信は磨かれた内面からこそ溢れるものだと思う。

 今のわたしでは遠く及ばないだろうけれど、せめてそう在ろうと努めたい。


「エイコ、行こうか」

「はい」


 ウラヌスがわたしを迎えに入室した。その様子はさすが、堂々としていて。励まされる想いで程良い緊張を胸に歩み寄る。そんなわたしを彼は、思いがけない表情で迎えた。


「ーー嗚呼、おれの乙女、救いの星」


 ……それはまるで、信仰対象を見るようで。

 ことさら丁寧に手を取られ、口付けを贈られた。


(……あ……そ、そうだよね? これくらい挨拶だよね)


 別に揺らいでないもの。澄まし顔を装って場をやり過ごす。

 我知らずといった様子のウラヌスにそのまま手を引かれ、彼の臣下を引き連れて謁見の間へ導かれていった。

 ようやく救国に向けて事を進められるからか、終始嬉しそうな彼を見ていると……次第にわたしも昨夜の気持ちが戻ってきて、緊張が薄らいでいく。そして一際大きく荘厳な扉の前に、わたしは立つ。




 大勢の人々が入ってもなお余裕のある大広間。微かな透け感と煌めきのある石を溶かし固め、つるりと磨き上げたような床や壁。ドーム状の天井からは空の青が覗き、わたし達を見下ろしている。

 奥へ向かって藍色の絨毯が走る両側には腰を落とし控えるたくさんの人々がいて。彼らを視線でなぞった先には緩やかな階段から立ち並ぶ柱が見える。

 その最奥、青いエステレア国旗が掛かる下に座すのはエステレア皇帝陛下と皇妃陛下。この場の全ての人々を従え、威厳に満ちた佇まいでわたし達を出迎えた。


「我が聲にお応えいただき、真に感謝いたす。異界の星詠み殿。貴殿の力を以て、どうか我が国に星の導きを授けて欲しい」


 ウラヌスと二人、こうべを垂れた頭上から声が降る。それにわたしはあらかじめ用意された文言を舌に乗せる。


「ーーその願い、星詠みは確かに承りました。星聖なるエステレアのため、世界のためにお力添えいたしますこと、星に誓ってお約束いたします」


 わたしの声は静まり返った空間によく通った。自分の言葉ではないけれど、今この時、そこにはわたしの想いが確かに乗った。


「こうべを上げよ」


 お許しを得て、ようやく頭を上げる。よしよし、ここまでしくじってないはず……と両陛下を見上げて。

 お二人の浮かべるその表情が、わたしの想像を遥かに超えて柔く優しかったことに驚いた。


「礼を言う。エイコ殿」


 ーーそうか。わたしは本当に、歓迎されているんだ。

 馬鹿なわたしはようやく、心から実感した。

 ウラヌスに手を取られて立ち上がる。そして階段を上ると控える人々の方を向いた。

 こんなにたくさんの人が……わたしを迎えてくれているんだ。

 彼らも陛下のお許しを得て頭を上げ、立ち上がった。


「今のこの時を以て、我が国はこの者を正式に異界の星詠みとして迎える。この者の言葉は星のお言葉として受けよ!」


 陛下の声に全員がもう一度、深く深くこうべを垂れた。その中にオージェとシゼルもいる。さらに手前には、飛び抜けて身なりが良い少年少女がいた。

 そんな全ての人々より高い所へ置かれて、圧倒されそうになる。数えきれない程の目がわたしへ向いた。

 つい先程、見た眼差し。ウラヌスがわたしへと向けたものに限りなく似ている。

 まだ力不足のわたしが震えそうになった時、ウラヌスの手がわたしの手をグッと握った。思わず一瞥したわたしに彼は、幸せそうに目を細めて。


「そして第一皇子ウラヌスと、異界の星詠みエイコの婚約を、ここに結ぶ!」


 ーーーーえ?


(ええぇぇ!?)


 聞いてない!!

 咄嗟にそう思って、瞬時によみがえる記憶があった。


『ゆくゆくはおれの皇妃だ』


 いやーー聞いてた!?

 

(あれ、でも昨夜はそんな事、一つも言わなかったような……聞いたっけ……?)


 人々からは歓声が上がっている。あまりの盛り上がりようにたじろいで、どうしたら良いか分からず必死に頭を働かせた。すると浮かんできたウラヌスの励まし。


『どうして良いか分からなくなった時は、ただ微笑んでいると良い。おれや周りが何とかする』


 ……後にして思うと、わたしと周囲との温度差に混乱していたんだと思う。降って湧いた話に戸惑い、かといって水を差す発言も取れず。

 八方塞がりな気分になったわたしが取った行動。それはーー微笑むことだった。

 そしてお披露目は無事に終了する。滞りない、それはスムーズな謁見であった。


(……あれ、終わっちゃった?)


 与えられた部屋に戻り、茫然と立ち尽くすわたしの修羅場は、これから始まる。

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