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星聖エステレア皇国  作者:
星聖エステレア皇国編
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第36話 華やかな檻

 まず、どうしてわたしの居場所がウラヌスに分かったのか。それはやっぱりマーヴスネットの騒動が原因だった。

 あのアザー暴走の件が遠く離れたエステレア宮殿に届いたのは事が収まってから。それはもちろん、謎の青い光が一瞬でアザーを片付けてしまったかららしい。

 アザーの暴走に予兆はない。アザー達が人の警戒線にぶつかってようやく近辺や国に救援要請が行くので、本格的な討伐が始まるのはそれから。

 つまり、本来なら鎮圧までもっと時間や日数が掛かるところを、一瞬で成したゆえに<事後報告>となったということだった。

 その異例の事態に加えてアザーを塵にした謎の青い光が現れたときたら、異界の星詠みが関わったに決まってる……と、飛んで来たみたい。


「ね、ウラヌス。約束だよ? 絶対二人に……」

「分かってるさ。君の事は必ず伝えよう。陸路だから後日にはなるが、城にも呼んでやる」

「ありがとう」


 ラビュクォーレに滞在したのは一夜だけ。わたしはエステレアへ来た時のように、白竜の背に乗って宮殿へ向かっていた。

 結局ルジーとノーヴとの面会は許されず、それどころかオージェとシゼルとも話せないまま朝を迎えた。今も後ろをついて来る二人は黙ったまま。


「安心したか?」


 ウラヌスが優しい表情で問い掛けてくる。正直言って不安がいっぱいだったけれど、今のウラヌスを見ていたら少しは安心も出来たから頷く。

 すると彼は微笑った。


(やっぱりちょっと変だったのは、わたしがあんな別れ方をしちゃったせいかも。わたしを探してくれてたんだったら不安になって、当然だよね…)


 前に向き直るとエステレア宮殿が見えてきた。ウラヌスの保証があるとはいえ、あの女の子がいる場所へ戻るのはまだ少しこわい。

 あの子が悪い訳じゃないのに、ただわたしが何か、居心地の悪さを勝手に感じてる。

 

「降りるぞ」


 ウラヌスの声にきつく抱き付いた。そしてわたしが下ろされたのは、初めて宮殿に来た時と同じ場所、迎えたのはおそらく同じ面々だった。


「おかえり、エイコ」


 でも、通されたのは違う部屋。調度品はあの時と多分同じだけど、部屋の位置が明らかに違う。扉もあからさまに豪奢になった。


「部屋、変わったんだね」


 それとなく様子をうかがうと、ウラヌスはわたしをソファへ誘導しながら口を開く。


「ああ。ここはおれの部屋の正面、皇族の居住区だ」


 ひゅっと喉が変な空気の吸い方をした。


「こ、こ、皇族の……?」

「そうだ。皇子や皇女の住まいだ。これでより君に目が行き届く」

「あの、さすがに一般人が皇族の方の部屋はまずいんじゃ……」

「異界の星詠みだ。皇族と対等の地位を持つ。皇位継承権二位以下は下でさえある。それに、ゆくゆくはおれの皇妃だ。誰も文句などない」


 何て返せば良いのか分からない。再会してからウラヌスはわたしの分からない事を共通認識みたいに喋ってくる。

 言葉にならない気持ちで下唇を噛んだ時、ティートローリーに乗せられてお茶やお菓子が運ばれて来た。これまで様々な街で食べてきた物とは全然違う、洗練された逸品ばかり。

 思わず感嘆の声が漏れる。


「すごい! 美味しそう…!」

「気に入ったか? 長旅で疲れただろう。好きに食べると良い。全て君のための物だ」


 侍女の方々が下がり、わたし達二人きりにされる。何となく、ちらりとうかがった陽当たりの良い丸テーブル横の窓硝子。金属板か何かがバッテン状に打ち付けられていた。他の窓も全部同様だった。

 あれはそういう様式なのかな? 聞きづらくて視線を外す。


「ね、ラビュクォーレで言ってた話って……」

「今夜、必ず話す。だから今は心身を休めてくれ。ほら、この茶は我が国の特産品だ」


 そう言って彼がカップを手に取り、香りを楽しむ仕草をした。

 ……どうも今は話す気がなさそうだからわたしも倣う。爽やかな匂いが鼻腔を通り抜けて心地良かった。一口飲むと、イメージ通りの風味が楽しませてくれる。


「美味しい……」


 思わずウラヌスを見る。彼は嬉しそうに笑った。


(……あの時も、こうして、わたしの様子を見ながら話してくれるつもりだったのかも)


 おぼろげながらも事態が読めてきた今、一人で色々考えて思い込んでいた自分が申し訳なくなってくる。ウラヌス達からしてみればわたしが暴走したように見えたかもしれない。

 いたたまれない気持ちを誤魔化すように焼菓子を頂いていく。甘いお菓子と爽やかなお茶の相性が素晴らしくて、幸せだった。


「君がいない間に生地や装飾品を見繕ったんだ。後で一緒に見てくれ」


 かと思えば彼の一言に喉が詰まりそうになったり。


「ウ……ウラヌスは食べないの?」


 さり気なく話題を変えようとすると、彼は目を瞬かせた後、あ、と小さく口を開けて見せた。本気なのか、からかわれてるのか分からなくてついムキになってしまう。


「ウラヌス!」


 責めるように名前を呼んでも優しい面持ちは変わらなかった。……なんだか自分が幼いように思えてきて、しぶしぶ一口差し出してあげる。

 幸せそうに含んで、目に見えて彼の目元が緩んだ。


「ずっと、こうしたかった」


 わたしよりずっと頼もしいはずの身体が、肩に寄り掛かる。頭さえ無防備に預けられて心臓が跳ねた。

 なにこれ。

 ずっとって、いつから?

 わたしと彼の間のズレは思うより大きいのかもしれない。下手に動いて彼を倒れさせるわけにもいかず、わたしの心は焦ったり、冷えたり、とにかく忙しかった。

 そして本題に入れたのはウラヌスが宣言した通り、夕食後のお茶を頂いている時だった。

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