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星聖エステレア皇国  作者:
星聖エステレア皇国編
36/100

第35話 ともすれば窒息へ至る愛

「ウラヌス! 待って、わたし仲間がいるの。今はぐれちゃってるの!」

「もう会う事もないだろう。気にしなくて良い」

「そん…!? 何言ってるの? 黙ってわたしがいなくなったら心配掛けちゃうよ」

「……他の男の話ばかりだな、君は」


 痛くはないけれど、抗えない程度の力でわたしの腕を引いていたウラヌスがふいに立ち止まる。前を向いていてどんな表情なのかは分からない。でも穏やかな声色じゃないっていうのは、感じた。


「おれとの再会は喜んでくれないのか」


 平坦な声。早く答えなきゃいけない気がして、取り繕った返事が飛び出した。


「う…嬉しいよ! ……どうしてそんな意地悪言うの……」


 でもすぐに悲しい気持ちが湧いて、つい本音も言ってしまう。そしたらようやくウラヌスは振り向いてくれて、その顔には甘さが滲んでいた。

 また彼の腕が伸びてきて、拘束するみたいに抱き締められる。


「すまない。あんまり君が笑顔を見せてくれないものだから、妬いてしまった。でもその可愛い表情も久しぶりだな。声も、匂いも、随分久しぶりだ……」


 なに、これ?


(なに、これ?)


 ウラヌスの艶っぽく掠れた声と体温と、匂いにくらくらする。事態が許容範囲を超えて、震え出したわたしに彼は少し身体を離すと覗き込んできた。


「どうした…? 体調が悪いのか。無理もない、独りでさぞ不安だっただろう。おいで。もう大丈夫だからな」


 崩れ落ちそうな脚を掬われ、抱き上げられる。この世界へ来てから、あまりに気軽に運搬されてきたものだから変に板に付いてしまって。

 つい首に回した腕にウラヌスは目に見えて機嫌を良くした。


「いい子だな。そのまま掴まっておいで」


 すっかり不機嫌な彼はいなくなった。だからこれで合ってるのかも。……でも、合った気がしない。

 ずっとそこはかとなく居心地の悪さを感じる。だけど下手な事をしたらまた怖いウラヌスが出て来ちゃうかも。

 そう思ったら迂闊に動けなくなったわたしを抱えて、彼は歩みを進める。


「……ど、どこへ行くの?」

「宿を取ってある。平野で逢った君が疲れて見えたからな。……正解だったよ」

「わ……わたしの事、もしかして、探して、た……?」


 おそるおそる訊いてみた。すると彼はわたしを見て微笑う。その目の下には見慣れない隈が染み付いていた。


「手配書を出さずに済んで良かった」


 何かデジャヴのようなものを感じるけれど、思い出せない。


(ま、いいか……? それより宿なら、まだルジー達と合流出来る可能性があるかな。隙を見て……怪しい人達じゃないってちゃんと紹介すれば。多分ルジーの事は気付いてないんだ)


 大人しく運ばれながらこの後の予定を立てる。もうウラヌスは何も言ってこなくて、だから一人で黙々と思考していた。それがかえって怪しかったなんて迂闊なわたしには分からなかった。

 宿に着いてからの事。

 ベッドに横たえられ、半ば監視みたいにわたしを眺め続けるウラヌスがいて、隙なんて全然ない。

 困ったな。予定が狂い過ぎて悶々と悩むわたしに彼は問い掛けてくる。


「今度はどこへ行くつもりなんだ?」

「え……」

「道中、ずっと何事か企んでいたな。君はまたいなくなるつもりか? ーーおれの前から」

「ウラヌス…」


 その自嘲じみた表情に後ろめたさが湧いた。


「ちがう…違うの。ごめんなさい。わたし、お城を出たのはあなたの迷惑になると思ったからで……」

「前もこんな事があったな。……おれがいつ迷惑だと言った? おれが君を必要としている可能性は、考えてはくれないのかい。つまり君にとっておれは……必要ではないのかな」

「ち、ちがーー!」


 話が変な方向に行こうとしてる。慌てて弁明しようとしたわたしの唇は、聞きたくないとばかりに一本の指によって押さえられた。


「もういい。すまない、おれが言葉足らずだった。エレヅに怯える君に更なる負担を掛けたくなくて、おれ達の真意は黙っていた。大事にさえしていれば、上手くいくと思い込んでいたんだ。だが今こそはっきり言おう。君が異界の星詠みなら、おれの婚約者として側にいれば良い。君がそうでないなら、おれの妾として傍にいると良い」

「……な、なに、いってるの?」

「何者であっても、おれといてくれ。おれには君が必要だ。…だが君は異界の星詠みだ。だから、晴れて一緒にいられるな。もう居場所を探す必要はないな?」

「ウ、ウラヌス待って! 話が急で……」


 身を起こしたわたしの頬を滑る手が、首筋を捉えて。命さえ捉えられたような心地になる。


「記憶がないというのは、嘘だろう。おれが探していたのは異界から来た君だ」

「……あの女の子は……?」

「迷った時はおれの言葉にだけ心を傾けてくれ」


 ……もう何も、浮かばない。

 すっかり言葉を失くしたわたしに彼は恍惚と微笑う。そして膝にしなだれかかってきた。


「国を、おれを救っておくれ。エイコ。あたう限りの愛を捧げるから」


 ーーわたしも選択肢を間違えたのかもしれない。

 どこからともなく、何かがズレた音が聴こえた気がした。


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