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星聖エステレア皇国  作者:
星聖エステレア皇国編
33/100

第32話 エステレア皇室の事情II

「発信源を炙り出せ。手段は任せる」


 星聖エステレア皇国宮殿、第一皇子政務室にて。固く閉ざされた扉の内部、選び抜かれた信頼出来る者だけを集め、ウラヌスは冷たく言い放った。

 事は遡り、ウラヌスがエイコを失ってからしばらく。直ぐにでも飛び出さんと逸る心を抑え、彼女の行方に目星を付けようと動いていた最中の出来事であった。

 <エステレア滅亡と皇子の死の予言を受けて、皇室が異界の星詠みを召喚した>。

 まだ国家機密であった筈の情報が、民に露呈した。

 エステレアは星信仰における聖地。世界で一番最初に建国され、星との繋がりが深い国である。故にエステレアだけに星の落とし子、星詠みが誕生する。

 そのエステレアが滅びる。国内外を揺るがす危機に民は揺れに揺れ、この情報が世界中へ渡るのは時間の問題であろう事は想像に易い。 

 

「それからエレヅ皇室の件はどうなった。エイコがレンに救出を願い出たという者達の素性は掴めたか」


 その問いに答えたのは騎士団長アギルルフであった。


「はっ……やはり、星詠みさまで間違いないようです」

「……では、これでエイコがエレヅに召喚された仮定に一応の合点がいったな。イスカヤ」


 イスカヤと呼ばれたのは老齢の男。この場でウラヌスに次いで上等な衣装に身を包み、衰えた足腰の為にと彼が贈った特注の杖を突いている。

 その身分は星詠み。現在、城の星詠み達の中で最も優れた力を持つ皇室の相談役であった。

 また、祖父が早逝したウラヌスにとっては祖父代わりでもある。


「ええ、ウラヌス皇子。エレヅ皇室は星詠みを攫い集め、あろう事か我が国の召喚の儀に合わせ、召喚を行った……。そして我々とエレヅに囚われし者達の力が歪に共鳴し合い、歪な結果を生んだのかもしれません。本来、召喚の儀は星詠みと、このエステレアの地によってのみ成せる業。異なる地で行われた儀が、このような事態を招こうとは……」


 それは大層憂わしげな声だった。

 事実、この一件によりエステレア皇室は不必要に窮地に立たされる羽目となった。

 そもそもの始まりは、星詠み達がエステレア滅亡とウラヌスの死を詠った事に起因する。

 星詠みとは星の記憶の欠片を授かる者。それを人々に伝える時、彼らは自失状態で文字を読み上げるが如く話す。これを人々は<詠う>と称した。

 通常、それぞれが断片的な記憶を一方的に授かるだけだが、星詠み達が力を合わせる事で<望み>記憶を授かる事が可能になる。ただし、いずれも授かる記憶を選ぶ事は不可能であった。

 例外の存在を除いては。


「皇子、実はその件でまた一つ面倒事が起きまして…」

「申してみろ、アギルルフ」

「詳しくはシゼルが聞いております。申せ」


 アギルルフの促しに、彼の後ろに控えていたシゼルが口を開く。


「民がレン様を一目見たいと騒いでおります。さらにレン様がそれを聞き付け、すっかり乗り気になってしまわれたようでございます。それも貴方様と共にと」

「……イスカヤ。まだ彼女からも星詠みの力は感じるのだな」

「確かに感じております。しかし、未だ一つの記憶も授かる様子がないというのは異常に他なりません。星が我々に記憶をお授けにならぬ筈がない。異界の星詠みとあらば、尚更。それに本来であれば星詠みならざる者を喚ぶなど叶わぬ事でございます」

「……どういう事だ……」


 ウラヌスの父、エステレア皇帝の指示のもと召喚した娘は、求めた存在ではなかった可能性が高い。

 実を言うと、一目見た時からウラヌスは何とも言えぬ違和感を覚えていたのだが、その正体は掴めず。救国の為に一方的に喚び出したのだと、出来る限り心を尽くしていた。その後、彼女が詠えなかった後も可能性は捨て切れず、事情を知る者達で見守っていたのだが。

 イスカヤがエレヅ城郭の記憶を授かったために、ウラヌスがオージェを連れ向かった後、今日に至るまで、ついぞ彼女が詠う事はなかった。

 ーーこれは常識に照らせば星詠みではないと結論付けられる。ただし、レンから星詠みの力は感じられる事によってこれを結論付けられずにいた。


「皇子。真偽はどうあれ、早く手立てを打たねばあのお方、何をなさるか分からぬと思います。彼女は異界の星詠みのお立場に執着なさっているかと存じますわ。ご自分の存在が公となった事、大層お喜びのご様子です」

「何故だ? ともすれば、国家転覆を企む者達から狙われる危険な役目だぞ。暗殺を図られる事も有り得る」

「女心、お分かりになりませんか?」


 場に相応しくない物言いが唐突に飛び出し、一同が虚を突かれた表情になる。訳知り顔でいるのは言い出したシゼルと、無言で成り行きを見守っているオージェだけだった。


「はっきり言わないか、シゼル」


 上司のアギルルフが戸惑い気味にシゼルを諌める。彼女に効いた様子はなく、平然と続けた。


「異界の星詠みさまではあれば、皇太子妃の身分が約束されていますわ。レン様は皇子の虜でございます。禁じられていたのに、偶然を装いエイコ様に接触し、あまつさえ釘を刺したあたり……真実を知ったからといって諦めるでしょうか? そもそも、ご自分が本当に星詠みであるか一番疑っているのはレン様のはずですわ」

「権力を欲しているという事か?」

「権力だけならばもっと話は簡単でしょう。ですが恐れ多くも貴方様を慕っておられるのでございます。女として」

「彼女をそのような対象として扱った事はない」

「皇子がお優しくなされば、それだけで大概罪ですわ。オージェ殿もそうお思いになりませんか?」


 話を振られてようやくオージェは発言する。


「そもそもレン様をお喚びしたのは正確には陛下であるのに、彼女の中ではすっかり皇子が主となっていますからね」

「……我が妃は心で決まるものではない」

「分かっておられるからこそ、異界の星詠みという立場に執着なさるのでは?」


 怪訝な顔のままウラヌスは息を吐いた。本来であれば今頃は異界の星詠みから救いの道を授かり、とっくに滅亡回避に向けて動いていた筈なのである。

 苛立ちが募る。

 一方的に手を離し去って行った娘は、最もその心を煽った。勝手に永遠の別れを覚悟したような顔で、真っ向から別れを告げたあの娘。

 孤独を恐れる様子でいながら、離れ難そうでいながら、そのくせウラヌスの意思は確かめもせず。


(ーー君がその気なら、おれもそうしよう……良いかい?)


 ただ清く、高潔であった彼の蒼天にちらつき始めた不穏な色を女はまだ、知らない。

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