第24話 ウラヌスの正体
ついに、ついに来た。
白竜に乗って青海を渡り、新たな大陸を行き、見えてきたのは神話に出てきそうな様式の白亜の城。ーーエレヅ大陸を立った時に見た、お城だった。
「お城に行くの?」
「そうだ」
わたしにとっては願ってもない事。だけどウラヌス達がお城に行く理由が分からなくて、悩む。
空から見えるお城をまじまじと観察した。なんと言っても目を引くのは、防壁のように周りを囲む豊かな水流。建造物の合間から城中に水路が通っているのが見える。緑も多くて、まるで楽園のようだった。
「降りるぞ。エイコ、おれに掴まってくれ」
「うん」
言われた通りウラヌスにしがみ付いて身体を固定する。わたしから腕を離した彼が手綱を両手で握り直すと、何か合図を送ったのか飛竜は降下を始めた。
わたし達の後からオージェとシゼルの乗った飛竜もついて来る。
お城が、グンと近くなっていく。
あそこにエステレアの皇子様がいるんだ。そう思うと緊張で表情が固くなるのが自分でも分かる。わたしは皇子様が良い人なのか、それさえ知らない。ただ、わたしを助けてくれた女の子が言ったから、信じて求めただけ。
……どんな人だろう。どうしてわたしを探してるんだろう。
何度も考えた疑問が渦巻く。その答えは、もうすぐそこ。
「お帰りなさいませ。ご無事で何よりでございます」
お城の裏側から、隠れるように地上に降り立ったわたし達を、わずかな騎士様と侍女らしき人達だけが迎える。まるで……秘するように。
先に飛竜から降りたウラヌスがわたしに手を差し出して、取れば引かれて抱き留めてくれる。そして丁寧に地へ下ろされた。
オージェとシゼルも続く中、ウラヌスは騎士様に答える。
「ああ。手紙は見たが、何もなかったか?」
「は。全て変わりなく」
「そうか」
……どうして騎士様は、ウラヌスに恭しくこうべを垂れるんだろう。しかも彼と話す騎士様の鎧は、明らかに他の人より絢爛だ。
それが指すのは一つ、彼が騎士様達より偉いからに他ならない。何より彼の堂々とした態度が、この状況を当たり前の事だと語っている。
(まさか……ううん、そんな。もしかして貴族、とか。貴族じゃなきゃ騎士はこんな態度取らないはず)
ずっと不明だった彼の正体に、突然近付いたと感じる。
「まずは彼女を休ませたい。部屋へ案内してくれ。……無論、離れているだろうな?」
「勿論でございます。どうぞ、こちらへ」
「エイコ、おいで」
騎士様と話していた時とは打って変わって、柔らかい声色でわたしを呼ぶウラヌス。戸惑って後ろのオージェとシゼルを振り返っても、無言で微笑んでくれただけだった。
向き直るとウラヌスが変わらずわたしを待っている。先頭に立つ騎士様も。
わたしがウラヌスに一歩近付くと、一行が動き出した。先頭に騎士様、次にウラヌス、わたし、オージェとシゼル。それから控えていた人達。無言の歩みに水音がやけに耳にこびり付く。ふと飛竜が気になったけれど、到底振り返る勇気が湧かなかった。
扉の先は青や藍の装飾、それから花が彩っていた。重厚なエレヅとは全く違う、清爽なエステレア城にわたしは驚くばかり。
(なんて綺麗なの。それに調度品の一つ一つがとても優雅)
まさにウラヌス達に相応しい。そう感じた。
そうして人気のない廊下を歩き続け、着いたのは扉の少ない空間。その一つの前で騎士様は立ち止まり、道を開けた。
「こちらにございます」
ウラヌスがわたしの手を取って扉を開く。広がっていたのは、まるでお姫様のためのような部屋だった。
彼は迷いのない足取りで入室して、侍女の方々だけが後に続いて来る。
オージェとシゼルは入り口で立ち尽くして、入って来る様子がない。
「オージェと、シゼルは?」
思わず問い掛けたわたしの声はウラヌスに届かなかったようで、彼は部屋中を見回している。助けを求める心地でオージェ達を見た。二人はやっぱりただ微笑んで、何も言ってくれない。
「良し。エイコ、ここは君の部屋だ。好きに使うと良い。後で来るから休んでいてくれ。傷は癒えたとはいえ、まだ心配だ」
「え…! ウ、ウラヌス? なんでこんな、どういう事?」
「お話は後だ。では、頼んだ。謁見は明日にしていただく。楽な物を着せてやってくれ」
「お任せくださいませ」
「ウラヌス! 行かないで!」
「おっと……その言葉はずるいな」
離れて行こうとしたウラヌスに追い縋る。彼は一度立ち止まって、わたしの頬を一撫ですると諭すように言った。
「また後でな」
優しく突き放された。そう感じた。
急に心細くなって泣きそうになる。でもウラヌスは少し困った顔をしただけで、オージェ達を引き連れて去って行った。
呆然と立ち尽くすわたしに一人の女の人が話し掛ける。
「お初にお目に掛かります。ミーヌと申します。身の回りの事は何でもお申し付けくださいませ。……さ、軽くお身体を拭いて、お着替えいたしましょう。ご安心くださいませ。皇子もすぐにお戻りになりますよ」
ーー今、何と?
ミーヌと名乗った彼女の言葉が、一瞬、呼吸を忘れさせた。
「……え? おう、じ?」
ぎこちなく紡ぎ出したわたしの疑問にミーヌは、虚を突かれた顔で答えた。
「まあ……ご存知、なかったのですね。貴女様をここへお連れになったあのお方こそ、この星聖エステレア皇国が誇る皇子殿下。第一皇子ウラヌス殿下にございます」
「……うそ………」
「真にございます!」
ずっと探し求めていたその人は、始めから傍にいた。エレヅ城を脱出したその時から、ずっと。
(嘘ーー!?)
衝撃の事実にわたしは声すら出なくて。
心の中で一人、叫んだ。




