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星聖エステレア皇国  作者:
大エレヅ帝国編
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第12話 迎えが来た!

 ソイル王廟で人身売買の現場を押さえ、売買人を施設管理者に突き出し、拐われて来た女の子を引き渡したわたし達。

 ひと段落着いた頃にはもう夕暮れ時で、宿に戻って夕食まで休憩していた。


「八、九……」

「十五、十六……あ、十七!」

「くっそー、やっぱエレヅだと赤が多いかぁ」

「ふふ。わたしの勝ちかな」


 部屋の窓から通りを見下ろして、オージェと通行人の髪色を数える勝負で時間を潰す。オージェが青系、わたしが赤系を数えていた。


「十……」

「あ、オージェ自分をカウントするのはずるい!」

「お! ほらエイコ、また赤がいる! すげ~じゃん。燃えるような赤……」


 誤魔化すみたいに通りを指差すオージェに、素直に乗ってあげる。カウントを重ねようとして、でも、その人に心臓が大きく脈打つ。


(ローダー皇子)


 誰よりも鮮やかな赤色が、まるで夕陽そのものみたいに存在している。数人の従者らしき人達を連れて、堂々とした振る舞いで歩く先、人海が割れた。

 窓がーー音もなく閉まる。

 隣を見たら、オージェが口角をにんまり吊り上げていた。


「そろそろ寒くなってきたっしょ。ゲームはお~しまい」

「……そだね」


 さっきまでの楽しかった気持ちが針を刺されたみたいにみるみる萎んでいく。

 今すぐ逃げるべきかもしれない。だけど帝都を出てから一度もまともに休めていない。とくにウラヌスとオージェは。

 どうしたら良いんだろう。本当の事を話せば良いのかな。でも、話したら、置いて行かれるかもしれない。面倒だからいらないって言われるかもしれない。

 わたしの事で二人を巻き込みたくないのに、わたしはわたしが可愛くて、言い出せないでいる。卑怯な自分が嫌でぎゅっと手を握り締めた。

 そんな時、扉が開く。


「ゲームの結果はどうなった?」


 何も知らないウラヌスが軽快な声色でわたし達を茶化した。咄嗟にそれに答えようとして、わたしは、あろうことか失敗する。


「エイコ……?」


 もうあの城には戻りたくない。絶対に。

 その想いが強過ぎて一筋、涙が流れてしまった。この世界に来てからわたしはすっかり泣き虫になった。

 ウラヌスの表情が一瞬で真剣なものになる。慌てて顔を逸らしたら静寂が訪れて。気まずさに身動きが取れなくなる。

 ふいに足音が近付いて来た。それから掛けられた言葉に、わたしの浅い息は詰まる。


「君は誰に追われる夢を見たんだ?」


 古都バディオンの前に訪れた村の事。訊かれたくなかったそれを、今になってどうして。

 思いも寄らない問いにウラヌスを見た。わたしを見透かすような青がそこにある。


「教えてくれ、エイコ。君次第でーー君次第で、今すぐここを立っても良い」


 それは……どういう意味、なんだろう。

 彼の真意が分からない。だから言葉を紡げなくなる。

 そんなわたしにウラヌスは畳み掛けた。


「君が見たのは燃えるような赤髪に翠の目の、男か」


 あまりに、的を得過ぎた様相だった。


「なんで……?」

「答えてくれ。知りたいんだ。君の事を、知りたい」

「……わたし」


 本当の事、言って良いのかな。その一瞬の迷いがわたしから答えるタイミングを奪った。

 荒々しい足音が階段を上って来る。聞き覚えがある音。竦み上がったわたしは抱えられて、また勝手に事態が動いていくのを眺めるだけになる。


「大エレヅ帝国第一皇子ローダーである! 我が名の下に控えよ!」


 勢い良く扉が押し開けられた。剣を抜いたローダー皇子の高らかな名乗りが耳に障る。

 しまったと、思った。

 でもわたしはウラヌスの肩に顔を押し付けられて、何も見えなくなった。


「お前達、何者だ。その娘をどうするつもりだ!」

「そっちこそ、こんな一般旅行客に何の用なワケ? びっくりしちゃうじゃん」


 オージェのくぐもった声にまた口元を布で覆ったんだと察する。


「旅行客だと…? 何故顔を覆う必要がある」

「ただ旅行してただけなのにさ~、殿下に目を付けられるとかマジあり得ないっしょ。顔ぐらい隠すでしょ。てか皇子様こそ何の用ですか~?」

「何と無礼な……怪しい奴等め。とくにそこの娘! 顔を見せよ!」

「……!」


 あのローダー皇子がわたしに注目している。反射的に上げそうになった顔はウラヌスの手に押さえられた。


「何故そうもこの娘に固執する? 怯えているだけだ」

「顔の一切を見せない者を怪しんで、何がおかしい?」

「そうだとして、この部屋を尋ねた理由は何だ? おれ達に何か怪しいところがあったか。誰ぞの密告でもあったと言うのか?」

「……何が言いたい……」

「突然このような扱いを受ける謂れが分からないと言っているんだ」


 それは、わたしのせい。わたしが二人に甘えてしまったせいだ。

 真っ暗な視界の中で繰り返し後悔の念が押し寄せる。暗闇の中じゃ、ローダー皇子の誘惑が酷く響いた。

 

「娘、こちらに来い。今ならーー許してやろう。その二人の無礼も見逃してやる。お前さえ、私のもとへ来るのなら」


 離れようとした。でもわたしの身体は強く抱き締められて、どこにも行けなくなる。


「まるで脅迫だな。そんなんじゃレディは振り向いてくれないぜ」


 ウラヌスがローダー皇子を嗤う。初めて聞いた声だった。


「殿下への度重なる無礼。もはや黙ってはおれぬ。我が猛る炎を受けよ! 焼き尽くせ!」


 この声は……確かリビウスと呼ばれていた人。

 部屋の温度が一気に熱くなる。でもすぐに涼しい風が背中から吹き込んできて、一瞬の浮遊感の後にようやく視界が開けた時には、わたしは屋根を移動していた。

 目まぐるしく景色が移ろいでいく。ローダー皇子が追って来る後ろでは屋根に登りあぐねている兵士達の姿があった。


「一般人相手に随分と手荒な殿下だな!」

「あくまで従わないというのならエレヅ大陸中に手配書を出すぞ!」

「出せるものなら出せば良い。ーー大義があるというのならな!」

「貴様ら……!!」


 ウラヌスの挑発にローダー皇子は激昂した様子だった。ウラヌス達に負けない身軽さで屋根を伝い、わたし達を追い続ける。

 それに加えて平たい屋根は移動が容易い。家屋一つ一つの隙間も広いとは言い難くローダー皇子を撒くのは尚のこと困難だ。そこに殿を務めていたオージェが手を差し出す。


「ちょっと足止めさせてもらうぜ~。それ、流れろ!」


 光と共に彼の手のひらから水塊が押し寄せ、ローダー皇子に直撃した。そして彼はオージェの言葉通り水流に流されて、家屋と家屋の隙間から落下する。

 一国の皇子にこの仕打ち。この先どうなるのか、とてつもなく不安になってわたしはウラヌスに懸命に訴える。


「ウラヌス! もうこれ以上は……わたし、わたしあの人のもとに行く。迷惑掛けてごめんなさい。下ろして!」

「気にするな! あの様子、どう考えても普通じゃない。何をされるか分かったものじゃないぞ!」

「いいの! お願い、本当にごめんなさい。もう十分です。だから……っ」

「悪いが聞けないな!」


 これでこの話は終わりだと言わんばかりに、ウラヌスは言い切った。そして地上に降りた先にあったのもう一つの門。


「な、何事だ!? ちょっと君達!!」

「すまない! 失礼する!」


 狼狽える門番に一言だけ断りを入れて駆け抜けた。

 もう日没だ。赤い空に夜の気配が忍び寄る。安全だったはずの町は瞬く間に遠くになって。けれどウラヌスとオージェの速さは少しも緩まない。

 そしてわたし達はまた、暗闇の中を逃げることになったのだった。

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