第94死 アフターストーリー、終わらない夜の雑談
葬儀屋が青年を眠りへと誘い夢の中へと──心地よくめぐる死のダンジョンでの濃密な4日間──1浪をし膨大な時間の中で焦り頑張れたのはそこそこ程度、宴神大学機工学部次世代AI応用工学科ENへと何故かそのトキは魅せられてしまっていたまやかしのそれに妥協進学したこれまでの人生とを照らし合わせて────これまでのすべてが何かいいモノへと生まれ作り変わった気がする、強いエメラルドに煌めいているイチピースの思い出が、凪いでいたはずのじぶんのウツワの海には今とてもとても溢れそうで……『なんてことない』といつもクールにふきぬけて囁いてくれるような────やっぱり、あの女性の微笑顔。
やわらかな質の良いマクラの包容感、とてもいい夢のなかにいる。
葬儀屋は彼の左胸に手を置き、────落ち着かせていく。ゆらしたり不定期にトンとしたり、落ち着かせていく。
──つながる視線視界、彼女のその奥はとてつもなく果てのないように見える──灰色の瞳に見守られていき、チカラを使い果たした青年はぽやぽやとまた心地よい眠りについた。
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まだまだダンジョン帰りの夜は終わらなく、やわらかな眠りについただがその明るい喧騒のBGMのボリュームがあがる幻想の中ホトプレは目覚め────。葬儀屋は、べらぼぅに空腹で食べたくなったというこの場では総理大臣より偉い絶対的権力を持つ雇い主のおばみん様の注文で、おそるおそる焼そばの調理を開始した。
料理箸を持ち極限に集中。食卓に置いた黒いホットプレートの上で安物の豚肉を焼いている。
喉と口から干からびそうな寝起きにレモンスカッシュを一杯気の利く葬儀屋からいただいたホトプレ。とても再び眠りにつけるようなタイミングではない、ぱっちりと気を取り直し己の意識と視界を鮮明に、リビングで先輩探索者であるおばみんとまったり雑談を繰り広げていき。
「あそうそうそういえばホトプレぇこれ」
「なんですかそのニュ、え……」
「宴神大学次世代AI科、講師まりじ様(39)電子計算機使用詐欺罪で逮捕ぉ! なんちゃら生徒やらのごにょごちょ情報盗られてたみたいよ。これ君の大学のおニューなべらぼぅに意味不明でおもしローい学科でしょ? てか自分でまりじ様って名乗れる学校やばくね」
「え、ええええええええ!?!? はいこれ俺の大学のおれの学科……じ、じゃああの俺の身に覚えのない栄枯さんへのめっちゃヒワイな書き込みは……」
「栄枯ちゃん(31)へのクソみたいな長文セクハラタイピングね! 変態栄枯すきすきのホトプレ青年はガチで無罪だった説浮上!? っておいおい、そのまた赤の変態かクズ講師本人の仕業みたいだねぇ現在捜査中! にゃはっはは腹痛いよホトプレぇ、マァマァそのうち芋づるじゃなぁい? すっごいもってんねーホップぅ」
「まじ……そんなことが……」
「みたいだねぇホップきゅんの人生は現時点で頭おかしいな、ええ、ひじょうに! 丘梨」
「…………でもそんなメリットのないことを先生が……俺なんかのマイライフNTカードの情報を売っても即絶対バレて逮……あちょっとよく見せてください」
「どした?」
青年はおばみん持参のスパコンの画面を身を乗り出し食い入るように見つめてニュースサイトの小さな扱いの情報を隅まで読み詰めていく。
「これって大学の研究AIは削除か逮捕されましたか?」
「ん? 何言ってんのにゃははは、AI栄枯お前逮捕な!! なんて架空の人物は逮捕できないよホトプレしっかり? 架空を作ったやつは逮捕かもだけど!」
「怪盗藍紫かもしれない……」
「えなんそれ!? 突然オリキャラ作り出してナニ……! 私のオリ?」
「えオリキャラみたいなもんすね……なんか俺と先生の、他の生徒たちともミニチュアワールドの住人って題材の共同研究で作らされてたんですよ……」
「ミニチュアワールド?」
「舞台はごくごく普通の世界を模したやつで無法の死のダンジョンみたいな感じで……性格付けしたAI同士を作って住ませてたたかわせるみたいなことを……」
「すんごい意味不明なことやってんのねホトプレくんそれほんとに大学ぅ!?」
「一応そうらしいっすENENって呼ばれて毎日いたるところで馬鹿にされてるぐらいですけど……」
「そいつぁつらいエンターテイんメントだねぇ……よちよちよちよち」
よちよちと言いながら頭をワシワシと撫でていくおばみん。青年は少し鬱陶しい突然のいたずらを遮り。
「あちょ……そ、そいついたずら好きなやつで、俺もおもしろいから賛同してしまって。その【まりじ】って人あのMMOも俺なんかのちいさなアイディアも馬鹿にしない、むしろ現実的な方法を示して膨らませてくれるすごく良い人で」
「クズのふざけたヤツかとおもったら褒めて伸ばすタイプの神教師だったか!! クズと神は紙一重? ってね!」
「はいぶっちゃけ……逮捕なんてまじで信じられないっす……フェイクニュースじゃない現実で俺の大学のことなんだよねこれ……そんな事をする人じゃ……」
「いやいやわかんないよぉ危ない思考だよぉホップ。で、どすんの仮に怪盗AI逮捕するぅ? 虫網虫カゴならおばみんのおばあちゃんちにあるよ!」
「わ……わかんないす……賢いのは先生とAIで俺そんな賢くないので怪盗藍紫かもわからないので……やれることと言ったらWS……じゃなくて小さなワールドシミュレーターの中の怪盗義賊ごっこのおふざけだけでリアルな電子の海に行使するなんてそんな現実離れしたチカラがあるとも……いや俺や生徒たち学校の情報ぐらいなら?」
「んーとね、でもここのところ多いみたいだよぉホトプレ」
検索してヒットした、ここ数日での数々の──
「自分のチカラを試してる段階……まさか…………」
「にゃはははこんなのおばみんちゃんがパパッと検索かけただけだし! ギャグのオカルトだよっ、んなわけないだろぉ! そんなありえない長文電子妄想より焼そば食おうぜ! ホトプレ、空腹で頭まわらず頭悪くなってる説!」
「あたまわ……ちょうぶん電子妄想……たしかに俺なんか一生徒のがありえない……」
「そそ、MMOまぐれ当たりして勘違いしちゃったのよ、偏差値も大した事ないって! すっごくお馬鹿ですね、ええ」
「……おばか……っすね!! あははいや何俺なんかがかしこいフリし────」
気付けばじゅーじゅーと心地いい焼き音が立ち、部屋の空気を変える複雑なソース成分のいい匂いが立ち込めてきている。2人は勝手な妄想をそれ以上広げるのをやめてプレートの上にひろがり焼かれる焼そばのある食卓に集まってきた。
「さぁ、焼そばだ! うおおおおあこれ栄枯より美味いやつだにゃはははっはーーーー」
「あ、すみません……まだ焼き作業中です」
「は!? イヤもう匂い的にベストに焼けてる焼けてるぅぅ、なんぼほど焼くのよ丘梨クローンちゃん!!」
「えっと……べらぼぅというやつなのでしょうか?」
「それ丘梨本家のヤツゥゥゥ!! すぐ盗るぅ~~、じゃなくて明らかに確定的に焼き過ぎ! 空腹のホトプレもなんかいってよちょ」
「えっと俺は別に……焼そばってしっかり焼きたい気持ちもわかりますし、それはそれでアリかなって? 空腹なら、スナイパーの狙撃より我慢で耐えられますよ俺!」
「ホトプレさんありがとうございます! もうちょいもうちょいでパリもち食感ですのでお待ちを!」
「800万の丘梨クローンの反抗期!? ホトプレぇナニ加勢してんねん! しかも意味不明! え、これ私だけせっかちなヤツみたいになってるじゃんウソぉ!?」
「パリもち! もうすぐです」
「あ、俺お茶入れときます」
「助かりますあビールも追加で買ってきました800万なので!」
「えっとハイ了解です!」
「こんなの豚肉もきっと焼けすぎてるって丘梨!! え、焼そばカリカリチャレンジコンティニュー? げぇっ、なぞの連帯感の焼そば男女マルチプレイでこの天下のおばみんちゃん様がくっそ逆らわれてる!?」
「パリもちで800万……ですので……!!」
「あ、葬儀屋さんその唐辛子あんま辛くないやつです! 唐辛子こっちの方が辛いのありました!!」