第92死 800万、熱烈な歓迎
死のダンジョンの有名吐い信者オーバー未惇が用意していた新品の市販レモンスカッシュを、開封。
それは彼女の吐い信終わりのルーティンでもある至高の一杯であり、ホトプレ青年への先輩探索者として死のダンジョンからの生還を祝うご褒美でもあった。
ボロついたソファーに並び座って、カランとグラスを合わせて祝杯。主役はど真ん中に据えて、何故か挟まれ圧迫感を感じる距離も。
冷たい、シュワっと弾ける炭酸と甘酸っぱい────
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先輩探索者と葬儀屋からの熱烈な歓迎は終わり……何故か風呂上がり……のぼせてぽやぽやとする頭で青年はひと涼み。とにかく帰って来てからのイベントの連続で消耗した脳に糖分をおくりながら、ぼやっと今日一日を振り返りながら…………。
死のダンジョン帰りのホトプレ青年に熱烈な歓迎をするためにオーバー未惇に雇われたのは葬儀屋の女。800万円という大金が……既にポチポチと操るスパホに振り込まれていた。こんな大金をぽんっと貰えば誰もがいつものような冷静ではいられないのかもしれない。
その800万に支配された思考回路が熟考、風呂上がりにあるといいものそれは──
赤と金のパッケージ、2025と大きく書かれている、アイスが用意されていた。滅びた懐かしの味をAIが味を言語化あの硬さを再現、ふたたび小さなブームに、なんてことは稀に良くある。滅びた味も心機人類にとっては当時を知り懐かしむための価値のある味。
「どどどしたのこれ丘梨クローン、これはいいモノだよ!」
「800万ですので……坂を2つ越えてコンビニダッシュ出来ました……この世で1番硬いいいアイスをと」
「すっごーーい、800万マジありがてぇわ、でも1番硬いいいアイスっておかしいよ葬儀屋おまえ」
「800万だからか……じぶんの1番好きなやつを選んでました、ね……」
「えぇーもう800万でこのノッポマークトゥー頭おかしなってるやん!? でも1番高いのより自分の1番好きなの本能で選ぶあたり吐い信者的には有能だよぉ、ええ、ひじょうに! 味わわサンクス」
「あじあ、あじわわ…………はい」
ふたりイヤ3人、食べていく1番硬くてイチバンいいアズキ色。
「あ、たぶんおもってる4倍硬いので歯が欠けないようご注意を、素人はゆっくり舐め舐めしゃぶりながらが……美味しいからついついですけど」
「にゃはっはあたしゃお爺ちゃん(21)じゃねんだから葬儀屋! てか地味に小豆アイスに素人もクソもないっしょ! ──けっこう硬い? これモンふふぁーぁ?」
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ソファーでアズキあいすを舐め舐めと、放心しながら視点は前だがおぼろげに真正面。無言の青年がひとり左端に腰掛けている中。
食卓で800万の硬いキズナでギュっと札束と手を繋ぎ結ばれている凸凹コンビがクールダウンの女子トーク。
黒いホットプレート上にはかき集めた赤い山が出来ている。その薄いモノの両面をながめて、おばみんはニヤニヤと。
「ちなみにこれは1パックおいくらなんです? 超デンジポンカードみたいなヤツ……なの?」
「んー、そだねー、旧がでぇてぇ2万で買い取りだから1パックが200万ぐらいじゃね、まぁドッツに売ればね。ひぃふぅみぃーとん──」
「……こんなのが……4パックでハッピャ……」
「ちなみにこのホットプレートは70億かな」
「な、ナナ、ナナ……か、仮にこれで……ソースべったりな焼きそばヲやいたら……」
となりの机上には焼きそば麺の袋が4つ。冷蔵庫の中身を一瞬でパパッと確認していた葬儀屋は、ついでに夜食として、関西人としての本能で、買って来ていたのだ。
「こんな日にはべらぼぅに美味いだろうねぇ。あ、リアルじゃおじゃんのぱっぱらぱーだからカードパックは絶対開けないでね、焼きそばパックは開けても。──ってね!」
「…………────」