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第85死 栄枯さん、帰る。

 さいごのじかん……夢のようなじかんは、


 どうやら青年が眠りにつくまで続けるつもりだった彼女。さいごにメモ書きを残してクールな謎のいいお姉さん感を出して逃げるという彼女のプランは崩れてしまい。青年は自分がカードの効果で眠れない状態であることを説明してその時間は終わりを迎えた。


 その後は軽く水源で濡らしたハンカチで身体を清めてベッドの上で栄枯の予定にはなかった雑談が繰り広げられている。


「栄枯さんほんとにそれするつもりだったんですか……」


「ええ、せっかくの無法の死のダンジョンヤリ切りたいじゃないですか」


「……それヤリ捨て……ひどいですよそれ」


「ひどいのはあなたです、私の立てたクールなプランがおじゃんになってしまいました、ふふ」


「はぁ……なんか栄枯さんって俺の見てる幻想じゃないですよね?」


「幻想とは? 私は私です、それともこの景色は現実とは認められませんか」


 ふたりがベッドに座り並び見る広がる砂漠の景色。ただただ背後のオアシス以外には何もなく、こんなところでベッドを置いているのも現実的ではない光景であり。


「……分からないですね、帰って自分の命を確認しないと俺初めてのダンジョンだから」


「私もはじめてです、ですが……生き残ってしまいました、ふふ」


 横にすわる彼の方を向き、彼もまた彼女の方を向く。口角を上げ目をわらわせ微笑んでいる彼女は。


「じゃあ、私帰りますね」


 べーっと見せたながい舌、その舌に乗っかっているメロン色の小粒と、お茶目な緑に変色した舌を青年に見せつけている。


「ええ!? 栄枯さん!?」


 驚く彼に対していたってノーマルな表情の丘梨栄枯が淡々平然と答えていく。


「はい? もういいでしょうか、帰ってシャワー浴びたいです。あ、あなたもくっさいので絶対入ってから外に出てくださいね、捕まりますよ、ええ、ひじょうに!」


「ちょ、ちょ、あ、あ! 栄枯さん俺これだけは!」


「私が好きだとか大好きだとかそういうことを言うのならやめてください」


「え、あ……だ」


「最初からあなたが私にメロメロであるのは分かっていますし、これは、そうですね? 英雄色を好む、栄枯色を好む? です! この死のダンジョンの環境下やはり人肌なよ恋しさはネックになって来ます、レベルアップによる快感もありますしやはり男女での程よいコミュニケーション、発散は戦闘での高パフォーマンスを発揮するのに必須かと」


 青年の抱いていた恋心というものは遠に彼女に見透かされており、最後に何かを押し付け打ち明けようとしていた青年の口にストップをかけた、何枚も上手であった丘梨栄枯。


 こうなることを読んでおり別のプランをべらべらと捲し立てながら考え彼女は意地悪にたのしんでいる。


「では、もう溶けちゃいまふのへ」


「ちょっ! 栄枯さんそれでも言わせてくださ」


 やわらかくというよりは突然に一瞬だけ──触れたのは時間も止まってくれない、よく分からない急いだもの。


 離れていく彼女の美しい顔に、驚きのあまり唇にゆっくり手を当てようとする青年。


「こんなべたなことはしたくありませんでしたが、少しはマシになれるようこれからの人生頑張ってください。私の事が好きで大好きでメロメロでもガチ恋しないでください、私とあなたとは今日たった今から他人です。未練のバケツはこの砂地にじゃばじゃばパパッと捨てて、あ、でも、いい思い出いいお姉さんだけをトキドキ思い返してください」


「そ、そそ、そんな無茶な! 栄枯さん!」


「ふふ、無茶でも割り切って全力でリアルに生きてあそぶ! それが大人で、吐い信者丘梨栄枯です! ここまでがエンターテイんメント、約束ですよ!」


「ええんたーて……約束…………」


 青年のよわい言葉ではもはや引き止められないかなわない。栄枯にこの恋心を打ち明ける事も封じられており、まさにやり場のない……。彼女とのお別れのじかんはもうすぐそこに来ている。




「ハイ!!」




 まぶしい星色の瞳をしっかりと、そしてしっかりと。


「ふふ、期待以上のいいお返事です」


 丘梨栄枯は笑っていた。ベッドを飛び降りパパッと黒いトートバッグを引っ提げて。姿勢を正したその長身の美しい女性は右手を優雅になかに払い深々とお辞儀を一度した。


「では、最後までべらぼぅに、ええ、ひじょうに助かりました死鳥舎様。スナイパーにうたれるまえにはやく帰ってくださいねーーーーっ」


 手早くバイバイとふりつづけて、吐い信者丘梨栄枯はメロン味を飲み込みこのセカイから消えていった。


「……栄枯さんほんとにかえった……」


 ひとり砂漠の高級ベッドの上で、何故か一層陽気だったお姉さんの最後を見届けたホトプレ青年。


 居なくなった吐い信者の居た場所を20秒程眺めていた。明らかに彼女への叶わないと分かっていた恋は散ったが明確に恋がイヤに散ったわけでもなく。残ったのはなんとも言えないおどけた結末であり──


 ベッドからゆっくりと腰を上げて砂地に置いた、何度もお世話になった戦利品を敷き詰めた黒いホットプレートの元へと近づいていく。


「おれも……スナイパーにうたれるまえにかえろう……あははははは……」


「こんな砂漠にさいごのひとりってさみしいし、不気味だな……冗談じゃなくほんとにさっさと帰ろ……栄枯さんも最後がイヤだったのかななんとなく……ハメられた? いや栄枯さんに限ってそんな……てかのど飴どこだ!? あ、そういやここに放置…………げぇッスナに────」

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