第84死 さようなら、丘梨栄枯。
「ええ、ではみなさんさようなら」
ここで丘梨栄枯の死のダンジョン生吐い信は終わった。小松菜のミソスープのようになんともあっさりとしたお別れの言葉である。
大幅に加速したぼこを星色の瞳は見届けてAIカメラは彼女のアウェイな目線をアップで映し。プツンと途切れた。
「よかったのかね丘梨くん」
「──ええ、元はといえばあなたたちは死鳥舎の1人です。私が勝手に巻き込んだだけですので生吐い信での流れ作業ではなくしっかりとこれまでのお礼とお別れを」
「ひゅー、ありがたいぜ栄枯直々によぉ」
《わたすは巻き込まれてヨカタよ栄枯! むしろ行きたかった!》
「俺もです! 栄枯さんとこんな経験絶対普通に生きてたらあり得ませんでした!」
「ふふ、そう言うと思いましたありがとうございます」
そう各々の答えを聞いて微笑んだ、彼女の目線が社長へとチラリ移った。
社長は彼女の気遣いに目でなるほどと納得して貰ったタイミングにタイミングよく口を開いた。
「感動のお別れの前にラストピースの件はすまなかったな。ホップくん、丘梨くん。アレは私が全面的に悪い殴り返してくれ」
あの突然の暴力事件、銀狼こと社長は説明はしたもののスリープモードの3分では足りていないと栄枯は判断しこの場を設けた意味も含まれていた。
頭を深々と下げる長身の男にすぐさま慌てた手振りで殴られた本人である青年は答えた。
「そんなのとんでもないですって……俺は全然むしろ殴ってくれてありがとうございました! 余計な混乱と邪推が広まるところでした、ありがとうございます社長さん!」
「ええ、社長様私たちは謎解きをしに来たわけではありませんし素人が不確かな情報で混乱させて炎上なんて嫌ですからね。私のような一般人の素人をギャラもなしにダンジョントピックで記事にしている古ニュースサイトのお馬鹿さんもいると聞きます。各々、謎は謎のまま頼みますよダンジョンはエンターテイんメントです」
「ひゅー、ばっちりだぜ。でも帰って栄枯と俺たちのくだらない記事をパパッと確認するのもひとつたのしみだろうなぁ?」
《コサンナイトがイチバンだめそ、わたすも栄枯確認すけど!》
「ははは、たしかに! まぁ古参ナイト目線な裏話は死鳥舎様に個人的にするかもだぜ栄枯」
「その程度はかまいません、私の愚痴は抜きにしてくださいね」
「はははは、ひゅー了解」
一連のやり取りで社長も頭を上げ、丘パのメンバーはむしろ社長の咄嗟の判断と行動に感謝するぐらいであり。後腐れのない気持ちのコミュニケーション、再確認が出来た。
それからは忘れ物がないかだとかそういえばアレはだとか話合いが幾分もつづいていたのだろう。イチ死鳥舎にしては吐い信者様からの手厚すぎるサービス。
やがて────お別れのじかんはすぐそこまで来ていた。人数分ののど飴の味で笑い合う、金髪美少女に微笑みの涙が目尻からそっと伝い。
《栄枯ミンナじゃあわたす帰るね! これ以上はかなしさが増えちゃいそぅ。MMOでミンナと栄枯といっぱいしゃべれたヨほんとの心から……こんなにうれしくてバトルでこんなにサイコウだったよ栄枯、ミンナ!! いつかあっちで会おうね! わたすは全然カンゲイおもてなすだからァァァ! ヴィアゼーヘンウンスモルゲン、またね!》
「短い付き合いだったがコンビも組めて濃かったぜぇまたなー金ポデ!」
「ほんと色々感謝してます! 今度会えたらMMOももっと良いものにしますからァァ! さようなら金ポデさん!」
「シュトレンごちそうさま。金ポデくん明るく素敵な女性だったな、また会おう」
「ええ、金ポデさんあなたとはいっぱいおしゃべりしましたね、思い返すと女子同士の修学旅行でしょうか? 最高の思い出です、ええ、ひじょうに……。MMOでの自由なやり取りも……死のダンジョンだけではなくまた会えるといいですね。必ず」
《うん…………栄枯!》
「サイコウだったよ! 栄枯ぉぉぉぉ!」
手土産のカードパックを食べきったシュトーレンの代わりにバスケットへと詰め、戦いを共にした相棒黒い警棒の栄枯からのプレゼントが突き刺さっている。煌めく涙の目で明るくそう出し切って、何味かもわからないのど飴を飲み込み金ポデは消えていった。まだ彼女のコエが耳に突き刺さりのこっている。
「……アレ、今? おい?」
「ハハ、私もだな」
「金ポデさんが……栄枯さん!?」
「ふふ、ふふふふべらぼぅに良い気のせいでしょう、ふふふふふっ」
4人が聞こえたのならばソレは幻聴ではなかった。死のダンジョンのいたずらか、それとも彼女の最後のイタズラだったのか。栄枯は最後にしてやられたと、ながながと笑っていた。
そんなサプライズの余韻も過ぎ去り次の方という空気になっていた。荷物をまとめトレードマークであるバイザーヘルムを脱ぎ彼なりにきちんと最後はということだろう。
「じゃ、次は俺だな、俺には律儀なヤツは特にいらないぜあばよ! あホトプレ最後の最後で死ぬなよ?」
「さすがに死にませんって、あはは。ナイトさんさようなら! あ戦闘での指示すごくお世話になりました!」
「はははは古参ナイトなら当然よぉ!」
「ナイトくん、そうだな。私は特に本当にないな。陰ながら素晴らしい働きだったウチの社員にならないか?」
「社長ないなら無理すんなって! でも今の仕事が上手くいかなかったら考えておくぜぇ! 永久に有効にしといてくれ」
「ナイト、さようなら」
「さようなら栄枯! ってほんとに何もない!? 栄枯さんよぉ!」
「ふふないですね、でもあなたで良かったです。それだけです」
「ははははそいつはしんぷるに最高だ! じゃな吐い信者丘梨栄枯!」
また帰っていく。のど飴を飲み込み、ぶわっと一瞬にして消えていった。最後に栄枯に向けて右手をサムズアップし、白い歯を見せた最後まで愉快な男は現実世界へと。
残り3人、動こうとした青年よりも先に長身のパジャマ姿は口を開いた。栄枯にいただいたホットプレートを蒸す用に作った粗悪な木の蓋に戦利品を置いて。
「つぎは、私に行かせてもらおう」
「先ず。栄枯くん、君のシルファンカレー愛が私たちをめぐりあわせたのだろう!」
「ふふ、ええひじょうに憧れの存在に会えるなんてラッキーです」
「はははは、憧れとはな。君のシルファンカレーを盗るような真似をしてすまなかったな」
「ええ、ひじょうに私の立てていたプランは狂ってしまいましたよ、ふふ。でもソレが目当てだったのですよね、社長様」
「ハハ、それはそうだが。丘梨栄枯くん君にも非常に興味が出てきたところだ今すぐにでも私のモノにしたいところだが……いつでも連絡してくれ、きっとチカラになれる」
「ふふ、それはべらぼぅにうれしいです。ではその時はサインの一枚ぐらいはお願いしますね社長様」
「ハハハハ、芸能人ではないが私もまだまだイケてるようだな。わかった約束しよう、では……おっと私は君にも興味があるな、素晴らしい戦いぶりだった」
「俺なんて、あはは……まずダンジョンを出て大学を出てからですかね……。社長や栄枯さんたちに興味を無くされないように今までよりもっともっと頑張ります!!」
「ハハ、それは現実的だな。話し足りないが足りないぐらいが腹一杯なのだろう。じゃあまたリアルでめぐり会おう! 死のダンジョンの愉快な探索者たち!」
2人は見送った。最後に突如タイミングの良い王子様のように現れて手助けをしてくれた偉大な人物を。ニッコリと渋い顔を浮かべて、栄枯も微笑んでいた。
残り2人、この電子のダンジョン世界のこの特別なステージには他にはいない。なんとなく哀愁、それがこの砂漠の景色に漂っている。ブルーシートは既に折り畳み栄枯のトートバッグへと仕舞われており、もう見のこした景色もそこにはない。
本当はもっと彼女と居たい青年であったが、これ以上の静寂を共有するのも少し恥ずかしい。
空気を読み、おもむろに靴先を彼女の方へと向け切り出した。吐い信者の彼女はゆっくりと少し口角の上がったノーマルな表情、見つめ返す星色の瞳を焼き付けて。
「じゃあ俺もそろそろ……栄枯さ」
「チンキス!」
「ゔ!? えヴィな、ナニ!? 栄枯さ!?!?」
「ナニじゃありませんよ、お馬鹿なのですか? ──死のダンジョンですよ」
何が起こったのか名残惜しさを満載に詰めてホットプレートを持ち上げようと──帰る気満々であった青年はチンキスされている。
丘梨栄枯は見下すようにかイジメるようにか妖しくワラい────。




