第219死 ▼チャんネル8▼
黒いドーナツから身を横に乗り出し、構えた大掛かりなスナイパーライフルを放った。
狙いを付けて出力するエメラルドの鋭い閃光は──直撃した巨大三日月を僅かに揺らし後ろ掛かりに傾けさせ機体バランスを崩した。
すぐさま追撃の次弾を撃とうと狙いを絞り構え直したが銃口に吹き流れる白風からやがて──火を吹き出してしまったそれを投げ捨てた。──道端へと役目を終えたライフルは爆発していく。
「すみませんそれ試作型で栄枯さんには物足りないかと!」
「ふふ足止めに一発打てれば十分です、あ危ないので道路に捨ててしまいました」
「捨てて、ええ!? だ、大丈夫……っす! 気にしないでください!」
「ええ、改善案のひとつややっつは後で提出した方がよさそうですよ。それにしてもこのタイヤドーナツさんは2人乗りが可能なのですね」
「え、えっとそっすね!」
「──もしや私の為に?」
「え、えええ、っとそうですハイ!!! 吐い信とかで徒歩より乗れたらなにかと便利かなっ……て!」
「吐い信……ですか? たしかにこれなら……黒い砂漠を越えるのも楽ちんそうですふふ詰めれば3人いや粗悪なベッドでパパッとサイドカーを作り7人?」
「それはなんかもう一台呼んだほうがいっすね……あはは!」
追われながらもホットプレートバイクは限界スピードを超えてトバしつづけ、カーチェイスと銃撃戦の攻防を上手くあの手この手で丘梨栄枯のリーダーシップを発揮し追うマザー・テンを撹乱して凌いできた。
そうこう雑言とバトルに熱中している間にも────
クールな彼女はずっと片隅に器用に描いていた……予感はビリリととある遥か頭上にリンクし完成した。
「ッ──おっとどうやら成しました」
びりりと味わうように引き剥がしたおデコのシップとともに不敵に微笑んだ、そして──
「では、パパッと行ってきます! あなたはそのまま巻き込まれないようにトマラズ! 決して振り返らず!」
「え!? 栄枯さんもう!? 振り返えと、えっと……ハイ!!!」
「ふふ、はいっ────」
振り返らず、カーキはリーダーの命令通りに振り返らずその疾走するアスファルトへと飛び出していった重みをひとり大きな返事をし見送った。
黒と黄の戦士は、ブラックなナイフ片手に成したプランを潜ませて──迷わずエメラルド光る三日月へと飛び込んでいった。
『丘梨栄枯飛び出してナニを!? フフフフ奇策であれば爆走の正攻法で容赦なく轢き連れてイキますよ!!!』
「退きはしませんッ運任せの奇策でもッもちろん正攻法こうです!」
「チンキスブレード+8!」
アスファルト懸ける、
ふわりと浮いた身はやがて、
巨大三日月に正面から挑んだ刃。
決して砕ける事のないクールなプランは今、成された。
▼▼▼
▽▽▽
辺り暗がり、いや暗闇……。
特徴的なダイヤモンドの髪はギラギラと……暗闇に置かれたその身を微かに照らす。パッチリと開いたマザーの星色の瞳は辺りを窺うが誘われたこの場が釈然とわからない……。
訝しむ星の瞳は、輝き示し。
「────────ナニを……ここはチャネル……」
『──傘は帽子の上に差すものです』
『チャんネル8──』
『相合傘と行きましょう!』
パッと咲かせた星色の瞳は誰のもの。
ブラックな包丁はギラギラと瞬く目印を目指し──エメラルド煌めくハルバードと激しくかち合った。
「相合傘が四角とは聞いていませんよフフフフ丘梨栄枯ッ!!!」
「パパッとで申し訳ありません、はぁあああああ!!!」
鍔迫り合い火花撒き散らし彩られていく──四角い黒いボックスは、
栄枯が密かに傍受したチャネル8の上に作り出した、四角いちいさなキテン物質の成すスペース。
チャんネル8とパパッと名付けられた。
チャンネル間を移動する為に斬り刻む程に栄枯の残した死電子その残滓は僅かながらもスペースに浮遊し溜まっていく。
密かにソレを四角に練り上げマザーの未だ使っていないチャネル8の遥か上空の死角へと配置。
貰った白い折り畳み傘を然るべきタイミングでボックス外の天へと打ち上げパラっと咲かせた、白傘へと手出しの及ばない完璧強固な栄枯の仮のボックスセカイをマザーのチャネルの上を借りて勝手に……作り上げた。
打ち合い離れて、栄枯は壁を蹴り再びゲストへと小細工なしの攻法で仕掛けていく。
強固なイシを宿すエメラルドと暗がりにも輝き映えるブラックは幾度もすれ違い幾度も合わさり、四角いステージを蹴り激しくも語り合う────、
「ここまでじっくりと見させてもらいましたよ企み含む立派な母の背姿というものを、ふふ、じわじわと卑怯がお好きなのですね、良い性格ですええ!」
「──フフフフッ! 例えそれが一時の卑怯でもッ! あなたが今日今すぐにそれ程に欲しいのですッ!」
「その取り憑かれた幻想を私がリアルに打ち砕いてあげます! 今日の丘梨栄枯はべらぼぅに凶暴ですよ!」
「この程度のチカラ凶暴ではありませんッあなたはまだまだ幻想の内の子供です! されどこのお痛するダークネスな玩具箱ごと母が刻み砕きましょう! 代わりに私の見繕ったもっと煌びやかな新しいオモチャを授けます!」
「ふふ、チンキス!」
「娘のそれは効きません! 長生きは」
「──・オンステージ!」
エメラルドとブラック幾度衝突しても砕けない矛と刃は合わさりカオス美しい輝きを周囲に放つ────壊れかけのブラックボックスのチャんネル8から膨大な電量を宿したヒートアップする極限のお互いの身は────プツリ。
繋がってまた失せた────。
▼▼▼
▽▽▽
────
──……
自身のチャネル間を移動する感覚よりもより深くここはどことなく妖しく重苦しい、奇怪の連続を現在進行形で味わい付き合わされているマザー・テンはそう感じた。
「くっ────……ここは……?」
「またイタズラをっ」
マザーと栄枯、幾度も激しく打ち合い互いに通じ合い十分な稽古を終えてその謎の幕は開かれた。
やがてもったいぶらずパパッと聞こえて来るヤツのクールなその声に、
「丘梨栄枯の初舞台が──あんな小さな四角い箱な訳がありません。ええ、ここが本当の私の劇場です、ふふ」
栄枯の作った仮設スペースから隠し持っていた本当のスペースへと繋がり、星色は4つ。
キョロキョロと探る2と、見つけた……ニッと細めた不敵なあぶない星色の笑みは──ナニをたくらんでいる。
誘うは、またも暗がりの劇場。