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第200死 心機人類一号器

 天空の橋を歩き黒いドアへと近付いていく。横目には──、さっきまでつつき合っていたドローン達はいつの間にか失せた何もないモヤつく青空。


 やはり考えうるは摩訶不思議、天高く夢幻の中にいるのかと、そんな錯覚とも分からないものを覚える。


 しかしもうここには何もない。銀色の天使が飛び去っていってからだ。


「EX階……機械人間と人間のセカイ? ……全く分からないですが名前だけは覚えました」


 人間の脳はそう万能の記憶装置じゃない。海馬を通して必要でも忘れてしまうこともある。あのプラチナ髪の天使が吃る事もなく発した話の内容。栄枯の耳をすり抜けていきなんとなく人間に対する怒りと────また会う事は本当に(うつつ)にあるのかということ……。


 考えながら歩く────、ふと立ち止まるのは、不意に過ぎったからだ。


 橋の下から噴き上げてくる、やがて身体の芯まで静かにとどき靡くソヨカゼが。


「────そわそわとする死の予感……呼んでいる……?」


 端から覗く足元、はるか底に通ずる。モヤが濃くなって街の景色が鮮明に見えなくなっていた。


「よく考えればここが未来的スタ……じゃなくポールタワーのようなものであれば地上にも……根付く街はありますよね?」


「この感覚……似ていますね。…………ええ、アレです! たとえば勇者一行、ダンジョン道中分かれ道、ふふ」


 顎に手をやり、スライドさせ手銃にしてひらめきを前に撃つ。


 微笑んで臨むのは、一歩二歩と橋の外に向いた正面を向きながら下がっていく。


「取り逃がしのお宝ほど気持ち悪いものはッ──」


 手頃なスタート地点で構えたランナーが走りだして向かった先は、


「ないというものですッ! ────やっぱり下げた足はァァ助走をつけても後悔でしょうかァァァ、ふふふッ!」



 そこの底。




▼▼▼

▽▽▽




 死の予感をたどって白きモヤを浴び────やがて舞い降りてきた。


 【SR】妖精の粉袋。


 キラキラと淡い黄色の粉粒を纏いゆっくり、彼女の知らない物語の舞台へと降下していく。


 白いモヤを過ぎ──グレーの変哲の無い街並み──そして。


 時間が狂ったのか、降りている間にも刻々と変化していく街並み。


 人気の無い……赤い熱に照らされた街に降り立った彼女は目撃した。黒紫の龍を呑み込んだ眩いミルク色の閃光は────。




▼▼▼

▽▽▽




 黒艶を失いカラカラと脱色し白く倒れた龍の骸と。



『ジョーカ』



 赤く照らされた街並みで、翳した手から横たわる五体を染め上げた──アオアオと流れ込んでくる奇跡を浴びた──パッと嘘のように死から目覚めていく青年と。



「チカラが失せていく……これが俺の物語なら……俺は今ナンセンスでかっこ悪いか?」


「いえ、希望ある物語の主人公のようでした」


「希望で主人公かそれはまたさっき読んだMANGA的と言うものだな、お前も知っているのか? アレは感情が揺さぶられておもしろいぞ」


「ええ、知っています。ふふ、面白い漫画なのでしょうね」


 横目に青年は口を挟まず。グーパーと確認して頷いている。


「にんげ……んー、お前も心機人類ならわかるよな? 様子を見に来たほやほやの俺の後輩か?」


「心機人類? ええ、私はそうですが? ……わかる?」


「勝手に命令違反してしくじったヤツがこんな事を言うのはどうかと思うんだが……心機人類なら人を助けてくれないか、俺は準備不足……で失敗したけどそのチカラを使えばもっとアツく上手くやれた気がするんだ」


 心機人類、突拍子もなく出てきたその言葉を考えている間に生き返った青年は口を開いた。


 はっきりとした声量で。


「あぁ、きっとそうするよ。上手く使って見せる」


「ええ、私もきっとそうします」


「そうか、そう言ってくれるか。会えてよかった後輩。そして勝手に死から目覚めさせてすまない、演算では……イヤ俺の目に映った……死を覚悟する呼吸する背が、死にたそうにはとても見えなかったんだ青年────」


 言い切ったそしてワラう──目の光は失せて────。


 男は、光へと淡く消えていった。



 見上げてやがて消える光の泡と、しずかな赤色の街で彼を見送ったふたり。

 

「心機人類なら……なんだったのでしょうか」


「スベテは分からないけどとにかく俺は今日、死んだけど死んでないみたいだ……」


「とにかくここは……歩きますか」


 心臓を抑え、次に熱上がる額をおさえてナニかを確認し終えた彼は彼女の言葉に軽く頷き。



 紅い無地のカッターシャツと白いジーンズやけに目立つそんな服装の彼と共に開けた街を歩き。


 突如天から地へと衝突し、ナナメに突き刺さった。


 彼女に待ち合わせを無視されてしまい怒って迎えに来たのか。


 現れた黒いご機嫌ナナメのエレベーター。



 流石におどろき考える青年と、くすりと笑った彼女と。


 乗り込んでいく黄色と黒と、立ち止まった紅と白。



「いけないみたいだ!」


「そうですか、手を!」



 鉄籠の中から伸ばされた手に──黒く染められた髪は首を振る。



「俺のせいでさっきの人は死んでしまった」


「せいというわけでは、彼なりの正義を貫いて本望のようでしたよ」


「そうか……俺もそう思う! でも俺には俺の酔っていた下らない絶望感であの人を死なせてしまった責任がある、シンキ人類なら人を助ける……あの人のやろうとしたかった事はなんなのかその続きを見つけなきゃいけない。理解出来なくてもなんかうずうずとココロで分かるんだ」


「亡くした意志を継ぐそれは……立派なことですが、私も、あ」



「「名前」」



「おや」


「名前を教えてくれないか、何かあれば助けにいくからさ。さっきの人のようにシンキ人類が命懸けでさ」



「栄枯、栄子ですっ」


「エイコ。この責任のつづきはいつか果たす、約束するよ。俺は────」


「────。ええ」




 そんな視えない戸ごしの途切れない男女の会話劇は、



 口を開けていたエレベーターはゆっくりと閉まり。



 最後に見つめ合う瞳の笑みを互いのエリアにノコして、


 丘梨栄枯はナナメに誘われた歴史を、また正しい現へと誘われ────昇っていく。

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