第190死 掃除屋vsJKムジン
通りすがり──肩を痛いぐらいポンと。不自然なソイツの手が掃除屋の女の肩に一瞬かかっていた。
遠方に眺める、ピンクとそれに挑戦する黒の素速く激しい争い。絡み合う2組のモンスター使いは、やがて横たわるグレーの巨大機獣要塞の中へと消えていった────。
「……」
「掃除屋と……掃除屋? 同業者さん行っちゃったけど……これって……一緒に乗り込む? のかなこれ? あっマジあるまじきアルマジロ、トカゲだけど遅れてごっめんんん!!! ほんとあのどうぶつスキル酔うからまじ気を付ける!」
「……遅れたとかじゃなくてきっと今のレベルじゃ出る幕じゃない、あんなの見せられてのこのこ後をついて行く事はできない。そんなのたぶん……ごめん、とにかくそこまで深く冒険するのは冷静に考えればリスクだとおもう。えれほわも私もさっきので電量が回復しきってないから。それに向こうはハッキリとは言えないけどこれ以上外には仕掛けて来ないとおもう」
「え、仕掛けてはこない? モンスターがってこと? ……んー、寝込んでたからちょっとわかんないけど察するに個人的な喧嘩な感じナンだよね? おそらく? ──うんうんふむ。ならァ私も全然本調子じゃないし……ままま、まぁお互い探索者同士だし恨みっ子なしでいんじゃないかなぁ! 私もアレに参加するのはちょっとねぇー手羽先級にマジあるまじき!」
「……そうね」
眺める、横たわるグレーへと挑戦する事はかなわない。
今は身を休めて備える。
えれほわ、うん私たちは以前より強くなった。けど……この冒険にはまだまだ先がある。今の私じゃ届かなくてもえれほわにはDELETEスキルだってあるらしい、まだまだ強くなれる。私自身だってまだまだこれから成長するえれほわをもっと上手く使いこなして見せる、だからいずれは────!
アルマジロトカゲとなった吐い信者獣眼鏡はそのゆれる横顔を見つめ、ちょいちょいと──レッサーパンダのサンダくんから受け取った気の利くフルーツジュースをそっと彼女らに手渡した。
▼▼▼
▽▽▽
▼ヨウサイ内部▼
「はぁはぁしつこいねぇ色男」
「あと3万発残ってっからなクズ野郎」
ピンクの猛獣に乗る薄ら笑いを追いかけた黒い翼のスキルは失せた。躊躇なく内部へと侵入し掃除屋の男が着地したのは──なんとも広々な鉄色のスペースであった。
「まぁいいよこうして僕のヨウサイにブジ案内出来たわけさ。あ、玄関は殺風景でごめんねあっは!」
掃除屋と距離を置き対峙するJKムジン。白黒ツートンファッションの人物が猛獣の肩に乗りごらんと手を広げる辺りはやはりどこまでも鉄色の床だ。
イカれた人物から想像していたようなマッドなラボとも違う、飾り気のない殺風景。だがそれはなんとなくどこまでも気色の悪い掃除屋の男の体験したことのないスペースであった。
辺りをすこし確認して、掃除屋は笑い飛ばしてブラックエデンのノズルでそいつを突き刺し示す。
「じゃー徹底的に邪魔して片して燃やしてから帰るぜ」
「あっははははは怖いなあゼンゼンチリひとつなく片付いてるでしょ。あっは! でも知ってるよ、もう僕との戦力差を埋める有効なカードも尽きたでしょ君ら? 金平糖だっけ、ふざけたアレは痛いけどバカみたいに発動しすぎだぁ必死はお肌に悪いよ?」
「そ・し・て♡」
歪な雷電とともに突然宙に現れた桃色のジッパーが二つ────ひとりでにじりりと擦れる音を立てて開いた。暗がりから覗き見えたその巨顔、
「さぁてヒガシくん、ニシくん、ミナミちゃん。君の大好きなデスキングテナガザルさんが三体、あっは! どう! さすがに意地張りんぼもきっついねぇ休戦する? 今ならなんと0発! 人生色々男の子のわかいヤンチャも久々の刺激的でかわいいさぁ許しちゃうからね」
空間を裂き空間のサキ、鉄色の床を歪ませ現れたのは2体、デスキングテナガザル総勢3体。
聳え立つ3体の桃色のモンスターに、
「いいねぇ男も若いと許されるのか、カッカッカ、ならこっからは俺のイロイロ殴り放題だな年寄りな人生食いしばって動くなよぉ!」
「はぁ、ふむふむやっぱり三発かぁ。うん、いいよ僕も殴られたぶん少しはスカッと楽しいだろうしね、それに年寄り呼ばわりはJK的に僕も傷つくよさぁ────」
「僕っこなんてもう流行ってねぇよその腐ったJKアップデートしとけチリゴミ」
「ふぅーん、ふんふぅーん、あっは! そっか……じゃ一気に三発平和条約ゥゥゥ!!!」
三体恐ろしく速く恐ろしくしなやかに伸びる三方の右ストレート。
一心一体でJKムジンに指示された猛獣達のターゲットはいつまでもニタニタと笑うその眼光。
バトルは瞬間と瞬間のれんぞく。
ブラックエデンはその黒い翼を広げて、カードは切られた。
【UR】金平糖手榴弾
【UR】金平糖手榴弾
【UR】金平糖手榴弾
【UR】金平糖手榴弾
【UR】金平糖手榴弾
【UR】金平糖手榴弾
【UR】金平糖手榴弾
【UR】金平糖手榴弾
【UR】金平糖手榴弾
【UR】金平糖手榴弾
【UR】金平糖手榴弾
【UR】金平糖手榴弾
【UR】金平糖手榴弾
そのアタマ熱冷めぬ手札散らす、その鍛え上げられた両腕鮮やかな手つきで金平糖散らす、それは美しくて荒々しい止まることを知らないカラフルな暴力。
白煙どころではない尋常ではない瞬間の連続で放った威力の跡────アマイ色煙がモクモクと立ち込めていく。
「2万発あらため2万粒コース、吐い信者からの出血多量大増産サービスだ、カッカハッハハハ──チリゴミオカマ野郎」
────そこに膝つく、鉄色の底に膝を突く。ボロボロにされたダルメシアン柄のツナギ。かつて居たおどけた道化師のスガタはそこには居ない。
意味不明なカラフルボウリョクに倒されたピンクの王獣達。ダメージ限界を迎えて桃色のオートジッパーへと逆戻りしていき、じりりと閉じられた。
女道化師の見せる苦悶の表情はこの男にとってやはり至極の味。ヤツの油断につけこみ出し抜きに成功し込み上げる今にワラい抗う術などない。
いつまでもつづく悪魔的高笑い。
その男増やすカードは無限大、偽物のクールタイムは息継ぎも必要無いゼロ。
吐い信では見せることのないこの男の本気の大掃除。
どこか鼻につくJKムジンに魅せつけたのは彼の持つ自信の裏打ちである根源のチカラ。
のばしたやさしき黒鼻が拾い上げたカゼに飛んだ帽子をぐるりと味わうように頭にすべらせ、後ろかぶり。
DODO探索者ランキング3位。掃除屋。この男の挑戦はまだつづいている。




