第189死 ダイナソーパーティー
▼2S GODPARTY▼
デスラプトルの群れと交戦中であったが。
「────おかしいですね」
クールタイムを終えたデスラプトルは各々にカードを発動、獲物に対して一定の間を保ち、尻尾や鉤爪から器用に飛ばしてくる金平糖のアメを靡く黒髪は抜けていく。
「カードを使用して来る敵などッ、見たことがッありませんっ、ふふ!」
カラフルに爆破された草原を横走る。しつこく追走、並走してくる小型恐竜達。その頭部骨格から推測される脳の大きさは人と変わらぬ。素速く群れでの行動が得意であるデスラプトル。
その動きその統率力を決して舐めてはいけない。まさにダンジョンで出くわしてしまったダイナソーパーティー。恐竜にしては小さいからといって雑魚モンスターのようにスンナリいく相手と錯覚することなかれ。
実は開戦直後ほんの数十秒前に丘梨栄枯は大失敗を犯していたのだ。素速い接近戦を仕掛けてくるであろう相手にはレーザー射撃ではなくこの先の演習も兼ねて包丁一本でパパッと処理をする描いていたのは其処に息をする相手のいないそんな単純な脳内プランであった……ここまで順調に勝ちを積み重ねてきた己の実力をある程度は高く評価しクールな余裕を見せる初手を選んだ丘梨栄枯に対して、ダイナソーパーティーの選んだ初手は【UR】金平糖手榴弾の斉射であった。
意表を突く爆炎に巻き込まれ──己の半分以上の電子保護シールドを削られてしまうという取り返しのつかない初手ミス。そう丘梨栄枯はココロのどこか深いところで慢心していたのだ。だが無理もない事だモンスターがバトルカードを使ってくる事など完全に今までの経験にない予期せぬ悪いサプライズであったからだ。
「完全にナメていました、相手の力量を量り間違いいらぬ格好をつけたとあっては、ふふふふっ、あらぬ失態ですよ、ええ! ──チンキス!」
やはり様子を見るようにリーダーに指示でもされているのかダイナソーパーティーは丘梨栄枯に対して油断をしてくれていない。だが遅れて流して走っている集中力を欠いていた1匹に狙いを付けて、爆発させたチンキスブレードは走っていた進行方向の真逆へと舵を切った。
爆発的加速を得て滑り込む死電子の刃はそのまま、隙を晒した喉を黒く切り裂いた。
ドタリ、その電光石火の急襲に群れの1匹は何も間に合わせる事は出来ず……後を追って走っていたその身は制御を失い滑り転け倒れていく。
敵の意表を突き返す鮮やかな、イチゲキ一死。
黄色いスニーカーは草の音を立てながら滑り抜けていった。一瞬にしてダイナソーパーティーの包囲網を抜けた彼女を、賢い恐竜達は完璧で狡猾であるプランを崩されて驚き声でも上げたのか。死に走る1匹を避けて──低い唸り声が響いた。
「素の速さでは互角といったところでしょうか、ええ」
すかさず前に構えたのは10の指。対峙する群れにもう先程のような油断はしない。考えるよりアクション考えながらの──驚きの小恐竜の表情の間にも矢継ぎ早のアタック。
「おひつじ座ですッ当たってくれると!」
だが──不発。何が起こったのかその細い指先からエメラルドの閃光は照射されていない。一瞬にして呼び出したはずの固定砲台はボロボロと崩壊していた。草原の地に崩れ去る音が耳にきこえ。
気合いを入れた掛け声が空回り、予想にない結果が丘梨栄枯のリアルに返ってきた。首を傾げることもなく、ぽかんと開く口と丸々と見開く両目。
珍妙で珍しい丘梨栄枯の表情がそこに……。
「おやおや……ええ、ええ?」
丘梨栄枯の頭脳をもってしても今という瞬間は意味不明不可解の連続。
そんな間抜け顔に降り注ぐのはやはり、
初手、次手、参の手。
【UR】金平糖手榴弾
全てをダイナソーカラフル爆破。
そんなたらふく量の甘くない爆炎を──おとぼけの間に間に合わせたチンキスブレードの推力で加速し真横に滑りながら突き抜けていく。
ビリリとこちらに向いた死の予感に対して反応は良好。回避は成功、さらに既に、
「──そんな困難もッ! ええッスキですっ!」
何も投げていたのは万能の金平糖だけではない。下腹に突き刺さった果物ナイフは対象を痺れさせた。
「チンキスブレードアレンジ!」
果物ナイフを媒介にチンキスブレードアレンジ! 拘束だけではなく攻撃。突き刺さった下腹のポイントからすらりと伸びる尾の先まで無断で果物ナイフの切っ先は横断。黒く切り裂かれた身体は光の粒へと失せていく。
スキルを行使し確実にまた1匹を対処。
「これで2ィィ。やはりナイフ、不発のビームより信頼できます、ええ!」
ビギナー丘梨栄枯とて戦闘経験を積んだ戦士。不測の事態に生じた隙をも大胆アレンジ、脳はクールに稼働確実にダメージが通り既に1匹葬っているスキルを行使し、スコアは+1。
残りは5。バトルカードを駆使するデスラプトルの群れダイナソーパーティーと、丘梨栄枯孤独な丘パの知恵とアレンジとチカラ比べは始まってしまった。
小型恐竜達との燃えるようなバトルに、ピンチを切り抜けコツコツとスコアを積み重ねる丘梨栄枯の汗きらめくバトルスマイル。孤独な舞台のエンジン始動、ぎゅっと握りしめるブラックな包丁片手に火照る身体の戦いのボルテージはメラメラと上がっていく。




