第181死 挑戦と挑戦
DELETE────。大掃除を終えたその直後。翼を仕舞ったその振り返る背、そのしたり顔とただ驚く彼女の目が合った。
圧倒的なチカラを魅せつけるためか、これがその男の全力なのだろうか。コートカードも使った様子はないし、どういうカラクリで……。
浮かべてしまうそんな表情を無理に正し、やがて苦くなっていく。驚き漏れ出た言葉をちゃっかり聞いていたのか、その男は饒舌にしゃべり始めた。
「そうだこれが俺の見つけたDELETEスキル、忘れた技を解放する大掃除技だ。お前の機獣も使えねえ技を覚えて試しては捨ててきただろう。その様子じゃまだコイツを覚えちゃいねぇだろうがな、カッカッカ」
忘れた技……捨てた……。ソレを使えるっていう……そんなの、あっ──、
「えれほわのスキルは5つまで……たしかに市街地Bで見せてもらったステータスに選ばなかった技のDELETEの項目はずっと残ってた……そんなスキルが、ならっえれほわにも!」
「5つ……? はははっハッハッハ。やっぱりお前とんだ冒険家だな」
「な何がおかしいの」
「いいやァ……くっくっく、なブラックエデン。ま、せいぜいが」
突如、現れたピンクに。しなり伸びたピンクの腕にニタニタと笑っていたヤツが吹き飛ばされた、そして眼前から消えていった。代わりにそこに居座っているのはピンクの毛並み黒い巨顔をした大猿。さっき倒された猛獣よりまた一回りデカい……。
「え、」
敵を打ち倒し集中力を欠いていた時間に訪れたあまりの一瞬唐突に、下した判断は反射的であり、現れた新手に掃除屋の女は構えようとしたが。
「これが君たちの機獣。すごくいいねぇ」
「なに……」
すぐ背後に粘る殺気を放つ誰かがいる。近付いていた気配は全くなかった、背の機獣を撫で襟足をぞくりとなでる、若い……女の声が。何故か身体はフリーズしたように下手に振り向けない、味わった事の無い肝を極限まで冷やすその予感に。
「ここは王都動物園ビーストらしいねそして僕がJKムジン、偽りの時代には期待はしていなかったんだけどすごく面白いよ君たちまさかの拾い物だよ」
右の耳元でずけずけと囁きつづけるその女に対して、冷や汗伝う感覚さえ拭うのが難しい。強張る体に更に手汗握り締める力を込めてしまう。
「というのもね、ここには大事な僕のねぇんー……そうッ異なる進化を遂げたであろう未知の動物たちの保護に来たんだけど、ついでに悪性人種を排除して再起動した生き残った有能なハズのヒト種もね。デモ君たち有能に暴れすぎだぁ」
「で、本題。ちょっと調べさせてよこの可愛くて白い象? の子! 代わりにほらッ、僕のヨウサイに案内してあげるからさぁ、なんなら後でそのぉ……スキルで! 僕のお気に入りの好きな子を連れてってくれてもいい」
「……おことわり」
「おことわ……あはっ、あくしゅ?」
両肩に置いた黒と白のレースグローブ、左肩上からずるりと這い出た丸いホースノズル、求めるのは握手ではなく、
発射した白い閃光。背後を貫く。
硬直から解放された体に力を込めて一瞬背後を探せど居ない。また前方の機獣要塞の方へと振り向き、大人しく待っていたピンクの獣とソイツであろう女が居た。
白と黒のツートンカラーの髪、ダルメシアン柄のツナギを着ている。さっきのイチゲキを避けて瞬間移動でもしたのか、また何かを慌てたフリをし平然と喋り始めた。
無理矢理にビームを撃ってしまったがえれほわに助けられた、吸い取ったエネルギーの残量を気にしながらもその銃口を構えた掃除屋の女。
「おおおお!? そだそだそういうの鼻で撃てちゃうんだ、へぇーかぁわいい! それと、そだマテマテ争う気ないからないから、そんなに構えないでよ戦いはさっきヤラレタ分ぶん殴った分で」
突如その人物は誰かに突き飛ばされたように。
「なんだこれ見えなッ!?」
見えない何かを予感し回避するも更に透明なビームは捉えて連射で殴り突き飛ばす。
「────掃除のつづきだ。──残り1000発は殴らせろオマエ、カッカッカ」
歩を進めながら現れた、掃除屋の男。ブラックエデンが鼻先で拾い上げた掃除屋のトレードマークである黒いキャップを深く被り直した。
「はははは、いやぁ痛いなぁ。そっちの黒い子は対照的にちょっと凶暴だぁそれもまたかわいいなぁ」
青い複数のヒットマークが残り染め上げられた白黒のツナギ。笑いつつ確認して、ぱんぱんっ、と両手で服を叩いていく。
「余裕ぶっこいてんじゃねぇぞインチキ道化師、女との談笑中にいきなしぶん殴るなんてどういうトリックだ冷めるぜチリゴミ」
「はははは、何ソレ意地張っちゃって! 頭から血ぃ漏れてるよ。一旦落ち着きな。またこの子の手が出ちゃうかも」
腕の長いデスキングテナガザル。しなる伸縮自在のその腕。その女のペットでありモンスターは大人しく命令に従順である。
「カッカッカはっはっはっ────、不意打ちはノーカウントってシラねぇのかオマエ。血ィじゃなくてちょいとズキズキする天然のシャワーだが? 【ブラックヒール】」
回復スキルを行使、帽を取り、灰色の髪をかき上げていくマジックのように失せていく赤色と眼を見開きニタニタと笑う掃除屋。再び被ったトレードマークの影から覗く、眼光は突き刺さる今にも襲い掛かりそうな獣の表情。
「あちゃー、これ話聞かないタイプの負けず嫌いのお猿さんだぁ。じゃあ3発、あとサンハツは殴れば大人しくなるよね! それ以上はお互いモンスター使いとして敵も味方もなしでさぁ平和に」
「お前は、3000発大掃除コース決定だがその薄気味悪ぃ笑いカタ直してやるよ」
「うんうん、そういう根拠のない自信へし折ると雄鹿はだいたいしばらく大人しくなるんだよねぇ」
「自己紹介か、じゃあお前の余裕もお前の城も全部後悔で染め上げて壊しゃいんだな、カッカッカ」
「実力差さっき教えたよね★」
「俺は未だ教えてねぇけど、なブラックエデン」
言葉の応酬はその冷静さを欠いた男が終えるまで終わらない。
「これは……一体……」
作り出された異質な状況に呑まれる彼女は敵に対してとりあえず構えたが、それすら利用するのがこの男。後ろ目にニヤリと笑いながら確認した。
「という事だ、生温い平和はこの街の探索者には通じねぇから。お前の絵に描いてたプランはチリゴミになったな、カッカッカ」
「ほんとにヤル気ないんだけどなぁ……ちょっぴり後悔しても知らないよ?」
「そういう余裕ぶったヤツを泣かすのが1番好きでね、俺様はッ!」
恐れを知らない黒い背は再び強大な存在へと疾る、JKムジンに提案された平和的解決とはいかなかった。手痛く殴られた分はきっちりとお掃除し直し清算。掃除屋の男とブラックエデン、再び挑戦。
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▽▽▽
▼コロッセウム(ブロック)▼
「おらおらぁにゃはははは」
「おい! ふざけた武器使いやがって!」
触覚光らせ操作する両手のミトンは縦横無尽、自由自在。突如このコロッセウムに許可もなく元気いっぱいに乱入して来た黒パーカーの美少女、その少女の操る珍妙な武器の対処に手こずる槍男。
鋭い緑の軌跡と駆使する技が素早い動きを空間の檻に閉じ込めて追い込んでいく。
「ふざけてないしぃ、現役JKだしぃ! そーらそらそらぁあやばっ!」
しつこく絡んで来る緑の糸を靴裏から吐き出したジェット水流で一直線に突破。猛スピードで強引にこじ開けて赤い槍を前にオーバー未惇へと突っ込んで来た。ぶち抜かれたミトンを呼び戻す時間はない、雷膜の防御で対応を──
突如、泥人形が美少女の前方ににゅるりと現れた。金平糖を口一杯に含んだソレが、槍男の見開く目に入り。カラフルに自爆。
槍男が自身周囲に纏う大きな水球はしろく蒸気を発しながら、その金平糖手榴弾の不意打ちを軽減。
「フィンガーライトニングバルカン!!!」
カードを媒介に雷の弾幕がすかさず左右上空から挟み込み斉射。軽減したものの乱れているその男に追撃をしかけた。
更に侍軍団の放つ熱線が好機に合わせる。
これでもかとターゲットに対して元気に垂れ流す弾丸を────、
「おーナイスガードお侍、今の惚れたかもぉ! ちょっくしやばかったよJK!」
「それこの前も言ってたが連絡先もらってないねぇ」
「にゃはははだって落武者の怨念たまってそうじゃん」
「お前もこっちこーい、ってか。確かにそんな夢5回ぐらい見たっけなぁ」
「じゃ、ちゃっちゃとヤッちゃおうよナンバー2。この槍もってる中ボス!」
「槍もってる中ボスにしちゃ、難しい気がするけどねぇ」
「────だぁれが中ボスだ。チカラの使い方が荒すぎんだよっ……いいぜいいぜ2人がかり上等来やがれ中途半端な人間ども!」
なおも健在槍男、トップ探索者達の放つ弾幕を受けてもその手に持つ赤い槍の力は緩まない。コロッセウムに集まりつつある観客と、乱入客。座して待つ強大なチカラの引力に惹かれた者達、その先に待つ光景を今は誰も知ることもなし────。