第174死 異常ではなく異常
▼堺市 彼方▼
彼方をゆく。灰色の天の下、生命力の無い静寂の街並みをどこまで走ってもたどりつけない。
道のり、甲賀流忍者トシはモンスター退治の仕事をこなしながらある微か過ぎる不確かな感覚を頼りに走り抜けて来たものの。
トシは硬いアスファルトの上でその渋い顔の眉間に皺を寄せ身を構え、探っていく──。
というのも、ソレは異常ではなく異常であったからだ。この堺市を大海だとすれば天から岩が投げ込まれれば、境地に達した者であれば直ぐに明らかな違和感とそのチカラの規模に気付く事が出来る。
この堺市にて特に気になる大きな岩は3つと1つ、3つは固まりソコにある。他にも見知った、しらない、石や岩がちらほら。
だが異常ではなく異常であると気付いたそれは岩ではなく綿。大海に浮かぶ一枚の綿である。弟子である甲賀流見習い忍者あやかよりも──異常な程に静かに浮かべてあるモノ。
立ち止まっていた忍者は、最後は勘に任せながらその古木のドアを開き店内へと入っていった。
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店にしては……暗い雰囲気の店だ。眠たくなるようなオレンジ暖色の明かりに、木のカウンター席の中途にひとり。
「波綿岩死────なんで俺が開発したそれをお前が出来るんだ。甲賀流の頭とJK忍者にしかできねぇぞ」
腰掛けていた人物は目もくれず、
「ハメンガンシ? 何のことだ」
静かに口開く横顔、そしておもむろに瑠璃色の陶器に口をつけた。
「とぼけんじゃ……ねぇよッ一反木綿」
四方八方、忍び迫った高速の影の針が不意打ち。いきなりスキル【影】を使いひとり座る横顔の男を襲った──、
「すまない長く生きていると古いワザや流派は忘れてしまうからな。悪い癖だ。ハメンガンシ……ハメンガンシ……んー」
「────ソレで、これは一体どういう意味だ」
握り、突き出した左の人差し、中指から煙草のケムリのような白煙が上る。
「アンタヲ殺すって事だろ、ハハハハ」
「殺せる刀を向けるべき相手は他にいると思うが──コーヒーが台無しだ」
以前座る横顔の男の前、手持ちの焼き物のカップは粉々と割れてしまい瑠璃色が周囲木の床へと散らばった。
「こんなとこで隠れて優雅に一杯キメてんじゃねぇよ。価値のねぇかくれんぼは終わらせろ、それで──どうせ遊ぶなら1番強いヤツ、とだろ?」
ニヤリ笑う黒装束のトシは刀の切っ先をその紅い外套を深く被った男に向けたまま。
ちらりと男は、こちらを──
「その格好は忍びの小僧か、ハナの良い奴はいたが……どいつもこいつも見せかけだけで期待は出来なかったな」
「達観してんじゃねぇ妖。見せてやるよ甲賀流」
「見なくても分かるデスⅡ……デスⅢクラスだな、オマエは分からないのか」
「はっはっは──、お前ナニモンだよ」
「弱い奴等の敵ではない、だからここでこうしてコーヒーを飲んでいる」
立ち上がった男は、失ったカップの代わりを簡素な木板の棚に並び飾られているナカから一つ、
「そうかいそうかいじゃあその殺気、垂れ流してんじゃねぇ」
「出ていってくれたら斬って燃やすより速い、オマエのお喋りはそろそろ長いな忍者」
背を見せたまま吟味、瑠璃色の代わりにコーヒーの黒にしっくり来る色味を、
「ふっデスⅢクラスだって言ったな」
ぐっと黒刀を握りしめ、殺気の水槽に息は溺れずその広く紅い背を睨みつけ、
「【デスⅣ】スペース系スキル」
斬り裂いた虚空から、暗い亀裂の彼方からバチバチと雷電が色が溢れ出た。
「【|甲賀流浪漫巣空素手裏剣】」
数多、色とりどりの手裏剣のグラデーションがその渋い男の周りに浮かび止まった。
「忍びの技でいっぺん死んでみるかお前」
再び挑む切っ先の殺気を向けたのならば、
正面立つそいつの表情がトシの熱く覗く視界に明らかになっていく。
「フッ。やはり忍者は曲芸好きばかりで弱い」
「ハッ。ならそのお楽しみで踊りながら死ぬ夢みてろ!!!」
呼び出したスキルを行使。
トシが操る、宙を飛び交いながら練り上げていくイロ手裏剣。素の色を重ね膨らみ混ざり意味は溶け在りて万物を成す。ソレ即ちスキル。
具現化したアオい烏は全てを刻み、
ミドリの亀獣は黒い大海ごと全てを飲み込む、
厳しくシロい嵐に吹かれ互いのその身に意味の異なる不可視のムラサキの縛りを負せば、知らぬ相手にはデメリット真の意味を知るこちらにはメリット。
デスⅣの境地に至った甲賀流忍者トシの本気。切っ先の先へと、尋常な量では無い電量を放ち、尋常では無い死の予感の漂うコンボをぶつける。
渋い忍者が笑い、叫び出力する現代版甲賀流オリジナルスキル忍法。
「斬羽青雷!!!・緑亀黒漠!!!・白嵐紫貼!!!」
「──バクエンザン」
発する強大な電量にオレンジの電球は既に不吉に砕け散り、並び置かれていたコーヒーカップはもう誰の口にも触れられず役にも立たない。
今はただ、
修行と熟考を重ねた忍びの技と、紅い一閃。
ぶつかり合った膨大なチカラは入り混じる爆炎と化し────。