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第172死 冒険

 一仕事を終えた──だが、



 アルマジロトカゲに変身した獣眼鏡は奮闘したものの現在戦闘続行不能。生電子と死電子を操るスキル【ウロボロス】の連続使用は彼女の体のバランスを大きく狂わせ、円環を成し生成される無限のエネルギーを受け取り酷い目眩と吐き気に襲われてしまった。共闘していた仲間に言い残したのは「マジすぐもどる……アルマジロ……おろろろ────」、と。体力を取り戻すため檻の中へと急ぎ出てきた飼育員に担がれ下がっていった。



 一方で段々と強さを増してきた猛獣モンスターに対して掃除屋とえれほわのコンビは苦戦を強いられていた。



「やっぱり、あの要塞を崩さない限り駄目だっていうの……! カードが……」



 破壊力抜群のボーリングノズル。で対抗していたが生成使用したコートカードの効果時間が切れてしまい元の性能のえれほわに戻ってしまった。これではマシンガンを撃てても向こうになおも寝そべる巨大な機獣要塞を崩せるようなパワーが到底足りない。ましてや強さを増し現れるモンスター軍団にも。



 マシンガンを垂れ流し、ソードでぶった斬り、基本形態の機動力を活かして後退し獣の牙爪を掻い潜る。


 獲物にブッ刺したビームコードを使いノズルから発射した閃光でぶち抜く。


 使用したエネルギーを埋めるためフロアノズルでモンスターを倒して舞った黒い光を吸い取り回収、全くもって余裕とは言えないが以前より大きく成長した掃除屋とえれほわは奮闘を続けている。



 だがやはり死のダンジョンでは探索者がそれぞれ持つ個性的なスキルだけではなく配られたバトルカードがもう一つの生命線。掃除屋の彼女が戦いながら落ちているカードパックまで回収開封している時間はそれ程に無い。既にコートカードを生成するのに少なくない手持ちを消費し、このまま戦い続けた先は──厳しい、と彼女も理解していた。


 撤退か、一時後退か、万全の状態なら可能性はあるがこのままではあのとてつもなく大きい要塞には届きようがない。だが、撤退すればセーフティエリアと考えられている檻の中にいる人々と動物たちが完全に無事という保証はない。


 ココロとヒートアップするアタマの中の秤にかけて、



 ──探索者獣眼鏡が戦闘可能に回復するまで、戦い続ける。



 ひとつ。導き出された選択はギリギリまではチカラを込めてやってみる、ギリギリまでは信じる事であった。



「えれほわ、まだいける?」


 その機獣は元気よく、────


「なら冒険のつづきだよ! えれほわ!」


 秘蔵の【LR】スーパードローンのカードを切り、ドローンに接続したえれほわは膨大なエネルギーを出力。


「出・ホトプス!」



 真似たのは狩野千晶の技、彼女の中で憧れ尊敬した仲間の強さの象徴であった。次々とノズルから伸び薙ぎ払う閃光剣が迫り来る群れを消しとばしていく。




 私はえれほわと、みんなと、もっと強く────だから負けられない。




 再度熱量を増して奮闘。柄になく叫んでみたり、調子に乗ってみたり、考えるのはこの不可解な戦いの意味よりも、シチュエーション。巨大なシロサイの要塞に次から次へと際限なく湧き出る猛獣のモンスターたち、守るべきものと何故か信じるのは出会ったばかりの仲間、そしてえれほわと私────。



 勢いを増す掃除屋とえれほわの無双の冒険劇にこれ以上のシチュエーションがあるとするならば────



 突如降り注いだ黒い雷光が辺りを焼き尽くし、


 灰色の髪をした不吉な黒い翼が舞い降りて来たのならば、


 戦いに夢中になっていた彼女はその黒い背を瞳孔を見開き目の当たりにする。



「んだこりゃおい。おいどなってんだこれカッカッカ」


「お前は……!」


 その姿に見間違いはない。居るはずのない……私の冒険の前に居てはならない。最悪のタイミングにそいつが、


「おいパクリ女説明をしろ」


 振り向きもせず何かを発している。黒い景を前に、黒い翼のスキルを失せさせながら。


 そんなヤツを見て何を言おうかと……この流れる今の感情の種類を一度探してみた。


 そして、震える心と熱こもる身体で彼女は振り絞る。



「……知らない。私とえれほわはもう200は倒した」


 彼女の身体から出力した言葉は意外にもクールに怒りとも違う種類のモノであった。


 そんな意外な返答に思わず振り返ってしまったのは──



「あぁ? ハッハハハお前が? その弱っちぃ機獣が? 200?」


「弱くなんてないえれほわは私と、みんなと、たくさん冒険して強くなった」


 ふわもこのキャスケット帽から覗く真っ直ぐなその瞳のギャップに──男は薄い笑いから大きく笑い上げた。


「ハッハハハカッカッカたしかにそんな目が出来るぐらいには少しは強くなったんだろうが……それは結局お前がやれ冒険だのみんなと一緒にだの、本当の強さから目を背けていたからだろう」


 お互いに数歩距離の空いたその場で、黒いノズルで彼女を刺し示しながら男は堂々ハキハキと続けた。


「なら俺の言う事の正しさが理解出来るだろ。甘さやさしさ思いやり、プライドやモラル他人の立場に立って考えよう……なんて他人に言いふらすヤツはクソだ。人間ってのはいくら自分が社会に則ったフツウのつもりでも知らずに相対的に奪われて沈んでいく、底無しに、そんなのがメンタルに鎮座していつまでも役に立つってんならそれこそ世界ってのは平等じゃねぇだろ?」


「……私はそうは思わない。──全く」


 その瞳は依然変わらぬ──、男の言葉は彼女に響きはしなかった。刺し示したノズルは飽きてしまったのかふにゃりと萎れて男の太い右腕に纏わりつき。


「はっはっはははナラァァァ! ……俺が証明してやるよ女、本物の掃除屋ってヤツをな」


 男は再び声高々に笑い上げ、その黒を背負った背を見せた。いつまでも腕に巻き付いた機獣の鼻を撫で上げ、かるくシッペをした。


「いくぞブラックエデン! 本日の目標汚掃除スコアは200以上だカッカッカ!」



 戯れている間にも寝そべる機獣要塞は、その重いハッチを開き猛獣を解き放った。そしてやり取りをしている間にも抜け目なく、ただカードパックを吸い寄せてバトルカードを補充していた彼女。



 時が来て────構えて向かうのはもちろん巨大な要塞の元への1番乗りへ、白と黒の機獣を背負い、積み重ね持ち得るチカラを魅せつけるのならばそれは純粋な共闘とは言えない。



 掃除屋の男と、掃除屋の女ふたり。


 いざ、挑戦と冒険。

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