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第170死 冠

▼DODO本部 事務局長室▼



 狗雨雷叢雲として本気で放ったスキルは──


 予想以上に素速い猫のような身のこなしが迫る風の連刃の狭い隙間を通り抜けていく。その男の伸ばした手が不思議とミドリを掻き消していくのを目の当たりにした。


 知っていたハズが理解の追いつかない敵に対して、捉えきれない速さではない、なおも狙いをつけて風のスキルを行使していく。



 やはり消されている……いや、



 気付けば自身が放ったはずの風の刃がミドリ三日月の弾幕に混じり何故かこちらに向かってきている。予想外の攻撃に対して狗雨雷は反応が遅れてしまい風の刃に刻まれ脇腹にダメージを受けてしまった。



 姉弟喧嘩では済まない──シックな黒で統一されていた事務局長室は乱雑で生々しい切り傷が増えていた。



「ッ────あなたにっ……そんな手癖のスキルがあったとは知りませんよ」


「知らないモノは怖いよね自分の弟でさえ、それも含めて驕りだよ姉さんの。でもそんなの今更気にするなよどれだけ姉さんが高く築いても陰はそれだけ大きくノビて育つ、だから太陽が射している間は這いつくばっている俺にも平等といえるだろ? ハハハハ俺と姉さん互いの人生ってのは上手くできてるからさッッそろそろ交代の季節だろォォ」


 青いパーカーを着た、金髪金眼。やはり見目は雨宙の弟の雷亜に違いない人物であり。だがその表情は姉に対して確かな殺気を向けている者である。


 刻まれ鋭く痛むだけの腹に自分の中で減っていくモノを感じた。この感覚は死のダンジョンと同じ────


「よくしゃべりますね、這いつくばっているとは自分に酔いすぎです、思慮の足りないあなたがいつそのような経験をしたというのですか? あなたにはあなたのぼこぼこチューブの管理という役割があったはずです。自分から始めた事をこのDODOの在り方が気に食わないというのならとんだお馬鹿です。救いようのない!」


「俺はそんな事頼んでいないね、俺を口車に乗せて利用してさ。姉さんの掲げる真の男女平等社会なんて結局男の作った世界にただ乗りする事なんだろ、弟である俺さえこうやって殺そうとしてるんだからな」


「何を分かった気に! 現在進行形で駄々をこねて邪魔立てをするヌクヌクと育ったあなたには」


「結局は姉さんがトップに立っても同じ事なんだよ。男は女になれない、女は男になれやしない。そのウツワじゃないのに無理をするからこんな事になるんだよ、身に余らせて肥えちゃってサァ!」


「何がウツワですかあなたにソレを測れるはずもないッ、私は姉としても事務局長としても全てを精力的にこなしてきました。誰が雷亜あなたをここまで育てたと思っているのです! あなたには散々に自由を与えたはずですその結果がコレだというのですか!」


「そうやってさぁ、もううんざりなんだよ! 寝込んだ母親の代わりかそしてクズな父親の代わりにもか? あぁーだからか、だから役を勘違いしてつけあがっちゃったんだな。わりぃわりぃ俺が悪ぃよこんなバケギツネを生み出したのは、世間にまで自分の歪みを正しさに出力し直して持ち込んでんじゃねぇよインプットし直せ馬鹿女消えろ!!!」


「出来損ないの弟が口の聞き方をおおおお」


 よく動く身体とよく発する口に────────風が舞い、氷水が穿つ、雷電までもが吹き荒れて、両者の攻防はつづき、狗雨雷がスキルで攻撃すればする程に自分の技をその妙な手先の動作で盗まれて盗んだモノを返されている。目一杯のチカラを行使する彼女の焦燥と苦しい表情を嘲笑うかのように、


 素速い身のこなしとその奇妙なスキルによる盗み取る攻撃が狗雨雷のペースを乱し翻弄していく。


 そして盗めるものに限りは無い。


 不意をつく、取り出したのは──ヤクト・ドローンⅡ2機が左右に展開し発砲。


 実弾のマシンガンが狗雨雷の電子保護シールドを削り取り、更に正面から盗んだ風雷氷スキルを展開したドローン媒介と共に行使しながら向かってきた金髪は果物ナイフを片手に──迫る。


 悪魔に憑かれた狂気というよりは、唇の裏に含み隠す微笑みと真っ直ぐに獲物を狙う金の眼。


 一気呵成、鮮やかな手際でチェックメイトの凶刃が────



 忍び寄る影は2機のドローンを貫き、主君を襲ったふざけたナイフは弾き返された。


 登場とともに鮮やかにチカラの横槍が金髪の鼠を奇襲。


 天から浴びせた黒刀そのパワーに細腕は受けきれずたまらず後退。


 伝統の黒い忍衣装を着たその男、



「だから言ったろ憂いは始末しとけって」


「──甲賀流忍者トシ……」


 何かを言い始める前に目の前の敵を始末するために男は動いた。ボサリとウェーブした黒髪を掻きながら、


 集中力を欠いたような素振りとは裏腹に甲賀流忍者トシの本影から糸のようにのび忍び寄る影は、


 ずぶりと、天から金髪の足の甲へと狙い突き刺さろうとしていた。その殺気に気付いた金髪は身を後退させ回避、それだけで終わるはずはない二の針、三の針が次々と狙い続ける。


 だが要領は先程の姉の時と同じ、盗む、盗んで返す使い方もしらない謎のスキルの影針を一直線に──だが鋭くお返しした影針は突っ立ったままの忍者を貫く前に──カタチを変えて黒い影の華を咲かせた。嘲笑うかのように、一歩とて動かないその男は笑っている。


「コピー系か? いや盗っ人、ははははそいつは素人の技なら盗めてもな俺の技は俺の脳内にしか取説はないぜ!」


「全部ヤルから覚えるまで盗んでみろよ、ソラヨっ」



 四方八方、この四角く黒い部屋に潜む繊細な殺気の影は風にひらひら靡く青いパーカーを貫いていく。それでも含み笑うまま焦る表情を見せない金髪は、ギアを何段階も上げた、目にも止まらぬ鮮やかな手つきが青紫の熱を発しながら影針を盗み道を拓いていく。


 壁を走り天を走り抜けて着地したその机上のブツに触れる。何度か針に身を貫かれながらも、なおも継続して襲う容赦の無い黒いスキルの雨を──存在が一瞬にしてぶわりと消えた。



 いつの間にやらこの部屋の開かれていたドアの前へとその身は瞬間移動。


 ボロボロのパーカーを着た金髪が何故かそこにいた。


 思わぬ瞬間移動のマジックに見失った標的を再び襲う甲賀流忍者のスキル。


 襲う高速の針をまたしても──微笑み、ぶわりとその存在は一瞬にして消えていった。


「──お前の弟らしきヤツは勝手に逃げたようだが追うか? ヤレっていうならさっきの続きもあるぜ」


 逃がすつもりはなかったが思わぬ奇怪な方法で逃げられてしまった。


 忍者は刀を肩に数度担ぎアテ、笑いながらに狗雨雷の方を向いた。



「結構です……。アレは弟にしては知りもしない事までしゃべりすぎです……それよりこの場の敵を殲滅してください。この晴れない感じは他にもいるのでしょう」


 桁違いの達人である忍者トシの邪魔をしないように余計な動きは見せなかった。一難の去った狗雨雷はおもむろにまだ少し荒げた息を吐き整えながら受け応えた。


「こんな事だろうと思って主君のピンチに駆けつけてやったのにな、手助けもベストなタイミングだったと思うが単純な攻撃スキルと相手の持っていた能力の相性が悪かったな。まぁトップも隠れて修行はするようだがはははは」


「どうでもいいです遊びじゃありません! 雇われの忍者なら此処に存在してはいけない妖を手早く討ってください、後の状況はこちらで考えます」


「そう意地を張るなよDODOのトップ、敵の偵察に索敵もこんな時こそ忍者の仕事だ受け取れ」


 バッと、投げられた緑の──


「折り鶴?」


「電子機器はイカれて言うことを聞かねぇ、こういう時のために紙はあるってもんだ。洒落た使いようだろ。じゃ、仕事しながら遊んで来るぜ」


 そう言い告げたと同時に甲賀流忍者トシは既にどこかへと消えていた。



 受け取った緑の折り鶴の元へと続々と、白い何かがやって来た。その一羽を広げるとこの堺市の状況に関すると思われる情報が書き込まれている。堺市に居合わせていたトシ直属の諜報忍者部隊からの遠方からの知らせであったが、


 種や仕掛けはどうでもいい所であった。直立する狗雨雷は苦い焦燥を浮かべながらも突如にして起こってしまった謎の状況を整理していく。


「死のダンジョンに仕掛けられた……これは、このような規模ならもはや小競り合いではなく戦争です」


 どうにも頭が冴えない──掻きむしり気付いたベタつく黒艶髪に、


 制帽を探す──────




「──────チッ……私から奪おうというのですかこの堺を……盛者が必衰するならば1年も経っていない夢半ば導くのは未だ私だけで充分です!」


 ヒールは床を激しく突き、くしゃついた伝文の白紙を捨て、冷蔵庫から取り出した牛乳パックの嘴から喉を潤し──投げ捨てたフラストレーションが白く飛び散った。



 襲来者によるトップの暗殺は失敗、盗まれたのは命よりも軽いが彼女の上に冠していたモノ。


 DODOを立て直すため彼女は情報と生き残った職員探索者達をかき集め、クールによく通る強いオンナの語気でその指揮を取っていく。

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