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第169死 バベルB

 現世とは隔絶したリアルシミュレーターの中でさえ、その開かれた────────世界とセカイを巻き込む大きな流れの影響の及ぶところであった。



▼市街地B▼



 前触れの無い突然の襲来で上階を貫かれたバベルB。そして彼方に見えてきた白い────



「きゃっナニいい!?」


「なんでェェいありゃ!」


「あれもお宅のウチのロボット?」


「ぬぇチガウと思う、だって」


「おおきい……敵?」


「……敵ダロそりゃ。ヤラれたのあの研究者の女のいるところダロ」


「……もしかして天罰?」


「丘梨の吐い信でみたやつぅ」


「あぁあのキモマッチ棒ね!」


「てことはやばやば?」


「なんかアレ見てると……心臓のオクが震える」


「気色悪いセンスがギャルの本能的に受け付けないんダロ」


「……ウチのギャル本能もさっきからヘン」


「ギャル本能全開でクエストゲートまで逃げるぅ?」


「でもでもランキング圏外の丘梨栄枯様なんて大した事ないってないって」


「でもウチら圏外の素人じゃん」


「てか助けに向かうべきじゃない? これって察するにウチらの大将首が狙われたって事だよね」


「ほっとけよあのイカれた女には義理も義理チョコもあげないダロうが」


「たしかにてかこれもあの女の仕組んだ訓練じゃね?」


「なる」


「やりそうではある……な!」


「この前なんて抜き打ちでドローン200機と戦わされたっけ……ヤルあの馬鹿女ならヤル」


「んじゃ」「うい」「ほい」「あそれ」


「馬鹿やめ撃つなァァ」




「「「「ん?」」」」




「んじゃねぇホラッ! 動いて無かったのにこっち来たぞ死ねぇ! スナイパーは冷静にダロ!」


「ハ? ナニ急に態度変えてんの」


「スカして説教とかダッサ」


「でもスナイパーの姿もうみせちゃってるじゃん!」


「獲物前に突っ立ってぺちゃくちゃ攻撃でもしないと馬鹿みたいな絵じゃん」


「それは、そう!!!」


「てか死ぬッ他のヤツらになすり付けて逃げるゥゥゥ」


「「「「賛成!!!!」」」」



 スキルバトル演習場にて、死のダンジョンの攻略を見据えて本格的に養成されていた見習いスナイパーギャルのグループは。


 DODOからの頂き物の試作スナイパーカスタムライフルで白龍に対して発砲。



 損傷してしまい設定されていた待機命令よりも自衛本能が優先され、白龍は鎌首をもたげて──遠方の探索者たちに攻撃を開始した。







▼バベルB▼



 市街地Bの象徴である緑の塔へと突き刺さった白い大脚。


 機器備品家具は散り散りと、元の部屋の有様が想像できない程に。


 視界に立ち込めていた粉塵が晴れていき、


 地上60階にある研究部屋は────



『お前か、人の持つ生と死のバランスを理解しなお壊しここを作ったのは』


「ッ────痛っーーいっ……あたたた…………びっくりしたじゃないか……キミは一体」


 間一髪、バベルBの知らせる一枚の警告が研究者を助けた。灰色に被る塵ゴミを払い、金髪白衣は倒れた床からゆっくりと起き上がった。


 語りかけてくる平坦な声に──褪せたピンク髪に。身体はすらりとデカい。全身白の装いで。


 紅い瞳のその男はまた言葉を発した。


「人は人として大人しく生きろ。行き過ぎた道を進んでいるならば正す」


「──いきすぎた道だと、あはは、何の権利があってそんな事を言ったのか、あははは」


 ぱっぱっと、白衣を叩きながらまりじは笑いその直立したままの男の方を見た。観察すると両手は空いており他に武装している気配はない……。依然デカデカと突き刺さった白い牙が横にあり、デフォルトの表情を変えないその男は金髪を見据えたまま。


「PSBと機人に対抗するために生まれた心機人類、廃棄したはずのそれをまたセレクションし作り上げていく機関。それがヤツらの作った死のダンジョンだ、お前達は何らかのスキルを得て好き勝手しているつもりだろうがその陰謀に加担している」


「ピーエスビー? 心機人類? ふふ、それはAI機工技術の繁栄と共にある我々の今の若い世代の事を主に指して言うんだが何か思い違いをしているようだが……死のダンジョンの? だとするとキミは管理者か何かかな」


 まりじは即座に返答しながら同時に男の発言から素性を探り理解しようと試みた。



「俺はそこまでのチカラは持たない、だが……ここにいる戦士をブラックな戦争の象徴であるPSBで殲滅する。もう既に動き始めている。そしてお前のようなマッドサイエンティストをこの時代から消すそれが俺の目的だ」


「マッド? あはっ、私は死のダンジョンと電境世界、イチ研究者としてシミュレーターの研究をしているだけだぞ。罪があるというのならばそのような物をチラ見せしたそちら側じゃないのかい」


 白衣の両ポッケに手を突っ込みながら、どこぞの映画の研究者らしい素振りの余裕の表情をみせる。悟らせぬべたつく手汗で──


 非常に不味い状況の気がするが、フム。このラストピースを使い私たちを消すということか……マッドサイエンティストとは心外だが、なんらかのキーや優勢電子の干渉と同期でこちら側に来たのだろうな。しらず恨みを買うほどに熱中しすぎたものかバベルとは……フフ、


「知れば知る程にそれが人の容量を膨大に超えた危険な事だとアタマでは知っているだろう」


「人という生き物を解っていないな。危険であっても砂漠にばら撒かれたピースは取りに行く価値があるんだぞ。ご丁寧にご挨拶の手順を通して、出る杭の天才1人を殺しても人は死のダンジョンに挑み進歩しつづけるぞ、そこに知と富が眠るかぎり」


「1人ではない既にここに居る戦士も抹殺対象と言っただろう、その次はお前の属するこのイカれた組織ごと壊す。穢れた血を流し凄惨な場を目の当たりにすれば踏みとどまり引き返す事も出来る、これから俺が行うのは世を案ずる神の思惑意思に等しい。その為の贄だ、人の持つ不可思議な性質はよく知っている」


 少し凄んだ男は左に片手をかざし研究者を見つめながら白い牙の繊維をしゅるしゅるりと解いていった。


 刻々と運命の針が刻み時を越えた選択が迫られるのならば、


「わざわざソレをべらべらと抹殺予定のマッドな私に知らせるか……キミは説法のようなマネをしてカラッポになるまで吐き出す程に素直とはね。あははは含ませた自分の判断によほど自信がない、それともコレは神に等しい全人類への慈悲のココロかな?」


「時間だ、お前の答えを聞かせてもらおう」


 いつの間にやら────白い針が取り囲む。まさに八方塞がりの寸分違わぬ等間隔に美しい布陣で研究者の心臓を刺し示している。


 250の針から伝わる絶体絶命の包囲網に、


 伝う汗はさっぱりと左手で拭われ、




「あっはあはははは……キマっているだろう? ──答えはこれだ」




 翻した右手、青い瞳をカガヤかせて美しい顔が狂い笑い発動したバベルBカード。


 内部から崩壊していく、散り散りに青空を降りていく、偽りの重力に引かれて。


 聳え立つ緑の塔はバラバラと光の粒へと還っていき、


 八方塞がりを相手の予期せぬ強引な落とし穴から脱出に成功。


 このセカイにおいて最強のバベルBカードのオーダーは、


 即興で彼女の得意とする大量のカギを作る事も造作のないことである。


 多量の生電子を消費して非力なイチ研究者の身に余る数多のピンクが咲き乱れるのならば、押し寄せて白い針に鍵をし、


 バベルBのマスターである金髪白衣が、鍵を敷き詰め作ったドアの絨毯にふわり。


 再度取り囲むのは──形勢の逆転劇。


 襲撃者の両腕と胴体を鍵の輪で縛り、緑の地上の景色に舞い降りていた。


「これが今の私のスベテだ。さぁ、留年の生徒くん。答えを聞かせてもらおう!」


 スキル【カギサス】の生成したピンクの鍵が刺し示すのは白服の心臓、


 大人しくなったピンク髪の男は、今度は逆に拘束されマッドサイエンティストに問われている。少しおどろく紅い瞳が、そのヤル気に満ち満ちた彼女の表情を見開き眺める。


 そっと吹く状況に似合わぬやさしい風が、




「────あの世の果てで寂しかったからさ。俺にそんな権利など元よりない。……ここも小鳥が囀るのだろう?」




 宙に浮かぶ鍵はサクラ色のツバサへと変わった。


 


 驚き見上げたまりじの上方に、宙を舞う鍵の小鳥の群れがみえる。


 ハッと青い目の視線をもどし──拘束された鍵はそのままに。


 天高く崩壊したバベルBとミドリの野が伸びるこの景色と引き換えに、


 ニコりと。男は微かに表情を変えた。

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